あたしら田舎者は〝鬱(うつ)〟なんて感じねぇさ!

 いわゆる〝田舎〟の人たちは、都会から訪れた観光客たちが、「いい所ですねえ。心が洗われて鬱(うつ)な気分を忘れられますよ。」というと、「ええ? そうかい? あたしら田舎者には〝うつ〟なんて感じねぇさ! あたしらはいつもこんなもんだからそんなことに感じたことはねぇんだけどねぇ……」と不思議そうに反応したりします。都会人がうらやましいと感じるのに田舎の人はそれをほとんど意識していないというわけです。  都会に住む人に〝うつ病〟傾向の人が比較的多く、田舎の人にはそれが少ないということがよく言われますが、こんなところにもその原因があるようです。

つらい〝上り〟よりも、楽な〝下り〟のほうが
体全体の健康に効果があるってさ!

 〝田舎〟の生活と都会の生活の大きな違いの一つは、日常的に〝土〟に触れてるかどうかという点……。近年、ガーデニング、ベランダ菜園、週末農園といった趣味が流行りつつありますが、これも「土に触れたい」という〝田舎生活〟への憧れがなせるものなのかもしれませんね。

 さらに二つめは、生活の中で頻繁に〝上り下り〟しているかという点。田舎の人は日常生活で常に自分の足によるアップダウンを繰り返しています。しかもその多くが〝土の道〟です。都会ではエレベーター、エスカレーターなどが完備していますから、ついつい乗ってしまいがちです。たしかに、下りはともかく上るほうは面倒くさいですものね。、

 実は最近、階段を歩くにあたって、つらい〝上り〟よりも、楽な〝下り〟のほうが体全体の健康にずっと効果があるといううれしい研究結果が出ているそうです(「美と若さの新常識」<NHK>)。 どうでしょう。階段の〝下り〟だけでも科学技術の利用を拒否してみませんか?

古木や巨石に霊が宿る?
そう、宿るんです!

 私たち日本人には邪馬台国の時代から「自然と共に生きる……」という潜在的な遺伝子が受け継がれていて、森の古木や巨石にも、渓流の滝にも、神秘的な畏敬(いけい)の念を抱く習性があるようです。「神が宿る古木や石」「滝に打たれる修行」さらには「春のお花見」「秋の紅葉狩り」……自然と共生する生活習慣は枚挙にいとまがありません。欧米の人たちには、基本的に〝お花見〟や〝紅葉〟を楽しむといった習慣はありません。日本に来て初めてそうした風情に触れビックリしたという外国人も多いようです。 日本は「汎神はんしん論の国」と言われます。木にも石にも山にも滝にも〝神が宿る〟というのが汎神論の考え方です。そう、日本では建国以来、もろもろの自然物には〝神が宿るんだ〟という意識が脈々と流れているのです。もちろん、あなたの中でも無意識のうちにその観念が受け継がれています。「ええ?」と思っているあなた、山中の滝に身が引き締まる霊気を感じたり、小さな紙切れにすぎない「おみくじ」を恐る恐る開いたことがありませんか?

畳の部屋に寝転んでいますか?

 ヒノキ風呂の香り、和室の畳の藺草(いぐさ)の香り、和風庭園で竹の樋(とい)から流れ落ちる「つくばい」の水の音……わたしたちの感性はこれらにふっと安らぎを覚えます。車の騒音と排気ガスの匂い、強すぎるオーデコロンや制汗剤の人工的な香り……これらに取り囲まれた都会の日常生活では、気がつかぬうちにストレスが増幅しているのです。 ふと目にとまった滝の霊気に……巨木や古石に宿る〝神〟に……たまには触れてみませんか?

この記事の監修者
朝霧高原診療所 院長 昭和大学医学部客員教授 山本 竜隆(やまもと たつたか)

聖マリアンナ医科大学、昭和大学医学部大学院卒業。医師・医学博士。地域医療とヘルスツーリズムの両輪で、地域活性や自然欠乏症候群の提唱などの活動をしている。富士箱根伊豆国立公園に位置する滞在施設「日月倶楽部」では、ヨガや瞑想などのマインドフルネス、企業の健康管理者への指導など雄大な自然環境に身を置いて行う各種滞在プログラムを提供している。
[朝霧高原診療所] https://www.asagiri-kogen-clinic.com/
[日月倶楽部] https://hitsuki-club.com/


ライター有坂 誠人(ありさか まさと)

国際基督教大学(ICU)卒業。長年代々木ゼミナールで国語の講師を務め、ルポライター時代の経験を生かした講義とその温かい人柄で、受験生はもちろん、マスコミのあいだでも「受験の神様」として圧倒的な支持を受けていた。学習参考書も多数出版。退職後は一般書の著述や地方講演でも活動している。著書に「現代文速解・例の方法」「受験生活指導要領」「図解雑学 経営のしくみ」など。

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