環境としての自然と人間の中にある自然。本当に必要な“自然”とはなんだろう?

皆さんは、“自然”という言葉を聞いて何を思い浮かべますか? 深い山々や広大な海原、どこまでも続く草原といった人の手が入っていない、あるがままの環境をイメージするのではないでしょうか。現代人に足りない自然の第一が、こうした環境としての自然であることは間違いありません。 しかし、“自然”という言葉は環境だけを指すものではありません。人の在り方、振る舞いに対しても使われます。その代表的な例が“自然体”。気負わず、余分な力を入れず、自分を偽ったり他の役割を演じることなくいつもの自分のままでいるといった意味ですね。現代人は日常生活や仕事の場で、さまざまな役割を演じています。本当の気持ちにふたをして、心にもないことを言ったり行動したりしなければならない場面も多く、それが大きなストレスの原因になることはあるでしょう。

人間に備わる“自然”の仕組みとは…


自然から遠ざかるのは、“本来の自分から遠ざかる”こと。人の中にも、“自然”があります。それを最もよく表すのが、人の体の仕組み。体内時計とホルモンの仕組みは、人間のリズムと地球のリズムを調和させるために不可欠です。本来備わっている仕組みが正しく働くことが人間にとって“自然”であり、心身の健康を保つのに欠かせません。この仕組みに反した行動が、自然欠乏症候群を招く原因となるのです。ここでは、特に重要な人体に備わった仕組みを紹介します。

自律神経のバランス

人間の体に張り巡らされている末梢神経は、「体性神経」と「自律神経」の2種類。体性神経は、痛みや熱さを感じる「感覚神経」と自分の意思で体を動かす「運動神経」に分けられます。自律神経は内臓や血管、瞳孔、汗腺などをコントロールするもので、自分の意思で動かすことはできません。さらに、自律神経は「交感神経」と「副交感神経」の2つに分けられます。交感神経は呼吸や心臓の鼓動が速くなる、血管が収縮して血圧が上がるなどの働きがあり、緊張している時、集中しているときは交感神経優位となります。これに対して副交感神経は呼吸や心臓の動きが遅くなる、血管が広がり血圧が下がるなどの働きがあり、リラックスしているときに優位となります。

 “日中は交感神経優位、日没後は副交感神経優位”というのが人間本来のリズム。このリズムを無視しているのが現代人の生活であり、自律神経のリズムを崩す一因です。

睡眠のリズム

体内時計は、睡眠に関わる重大な生体リズムをコントロールしています。

  1. 睡眠と覚醒のリズム
    長時間起きていると眠くなり、一定時間眠ると目覚めるという基本のリズム。
  2. 睡眠ホルモン(メラトニンが増減する)リズム
    メラトニンは太陽の光を浴びてから15時間後に分泌が始まり、これにより体は睡眠モードへと入っていきます。
  3. 深部体温(内臓など深い部分の体温)が日中は高く、夜になると低くなるというリズム深部体温が高い日中は交感神経が優位で活動的ですが、夜になって深部体温が下がり副交感神経が優位になるとリラックスモードに入り眠くなります。

この3つのリズムが乱れたときに起きる代表的な例が、時差ぼけ。睡眠リズムの乱れは、心にも不調を招くことが分かっています。

ホルモンの働き

体の成長を司る成長ホルモンは、成長が止まっても新陳代謝を促すという重要な役割を持ちます。肌や臓器、骨など、新陳代謝は全身で行われています。深い眠りの間(ノンレム睡眠)に大量分泌される成長ホルモンは、メラトニンによって分泌が促進されます。メラトニンは、日光を浴びてから約15時間後に分泌が始まります。つまり、成長ホルモンの分泌を促す最適な方法は、深いノンレム睡眠に入る時間帯と、メラトニンの分泌が最大になる時間帯を合わせれば良いということ。早寝早起きという生活は、ホルモンの自然な分泌を邪魔しない理想的なライフスタイルです。

体は小さな自然界―東洋医学の考え方


人の体を自然の一部と考えた時、覚えておきたいのが東洋医学の考え方。東洋医学の中でも中国医学では人間を自然の一部と捉え、自然界を表し動かしている法則は人間にも当てはまるものと考えます。この根幹をなす考え方が、「陰陽思想」と「五行思想」を合わせた「陰陽五行説」です。

<陰陽思想>

男性と女性、天と地、明と暗、昼と夜など、万物の全ては「陰」と「陽」という相反するかたちで存在し、それぞれが影響を与えながら消長を繰り返すという思想。陰は良くないもの、陽は良いものと勘違いされがちですが、どちらも欠けることなく陰陽が合わさって初めて完全体になるとされています。

<五行思想>

あらゆるものが「(もっ)()土金(どごん)(すい)」という5つの要素で成り立ち、それぞれの要素が互いの特性を補い合って性質を強めたり、特性を抑えて弱めたりして影響を与えあうという思想。「五臓六腑」という言葉は、内臓を五行にのっとり「肝(木)・心(火)・脾(土)・肺(金)・腎(水)」で表現したものです。

陰陽と五行の思想=陰陽五行説では昼は活動し、夜は休息するのが正しい営みであり、このバランスが崩れると病気を招くといわれています。

体には、自分の意思ではどうにも変えられない仕組みが存在します。それは、日の巡りや季節の巡りと同じように、自然の一部。自分の中で起きている自然の仕組みに逆らわない生活が、心も体も楽にしてくれるのです。環境としての自然に身を置くことも大切ですが、まずは自分の体にこれらの働きがあることを知り、バランスが崩れないように日常を整えてみてください。

この記事の監修者
朝霧高原診療所 院長 昭和大学医学部客員教授 山本 竜隆(やまもと たつたか)

聖マリアンナ医科大学、昭和大学医学部大学院卒業。医師・医学博士。地域医療とヘルスツーリズムの両輪で、地域活性や自然欠乏症候群の提唱などの活動をしている。富士箱根伊豆国立公園に位置する滞在施設「日月倶楽部」では、ヨガや瞑想などのマインドフルネス、企業の健康管理者への指導など雄大な自然環境に身を置いて行う各種滞在プログラムを提供している。
[朝霧高原診療所] https://www.asagiri-kogen-clinic.com/
[日月倶楽部] https://hitsuki-club.com/


ライター 濱岡 操緒(はまおか みさお)

大学卒業後、大手ゲーム会社に就職。広報宣伝部にて主に社内報や広報誌などの編集主幹を務める。退職後は母親向けの媒体、ウエディング関連の媒体などを手掛ける編集プロダクションに所属。現在はフリーランスとして書籍・雑誌・WEBメディアなどの編集・執筆、撮影ディレクションなど幅広く活動中。プライベートでは1児の母。最近の健康習慣は、ミトコンドリア活性化。

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