自然が不足しているからこそ必要な「リトリート」。癒やしの場所を見つける方法とは?

「リトリート」(retreat)という言葉を知っていますか? 語源は「retreatment」。本来は転地療養を指す言葉ですが、そこから“避難所”や“隠れ家”と意味が広がりました。リトリートとは、単に日頃の疲れをリフレッシュするためのことではありません。ストレスでいっぱいの忙しい日常から距離を置き、心身を癒やして自分を取り戻すこと。そしてそうした場所と、そこで休養を取る時間そのものを指しています。つまり、ストレスが多く心身を傷めつける日常からの“疎開”、さらにそこで自分を癒やし英気を養う“養生”の意味があるということは、ぜひ知っておいてほしいところです。 リトリートの本質は、都会とは違う自然の多い土地に、休養が取れる自分の場所を作ること。新型コロナウイルス感染症拡大の影響により登場した二拠点生活、週末疎開、地方移住といった“新しい暮らし方”もリトリートにあたります。

リトリートの先にある「ウェルネス」が最善の健康と最善の人生に


リトリートすることによってたどり着くのが、「ウェルネス」です。ウェルネスとは健康をより広義に捉えた概念で、ウェルネス研究分野の代表を務める琉球大学・荒川雅志教授は「身体の健康、精神の健康、環境の健康、社会的健康を基盤にして、豊かな人生をデザインしていく、自己実現」と定義づけています。体の健康を前提条件に、不安やストレスがなく、人間関係が満たされ、社会的にも認められる輝くばかりに充実した状態、それがウェルネスです。ウェルネスを実現することは、まさに人生の目標と言っても良いかもしれません。

都会での多忙な日常に心身をすり減らす現代人がウェルネスを手に入れるには、まず都会から離れて自分自身を癒やし、健康を含めて本来の自分を取り戻すことが不可欠。その上で自分を見つめ、自分らしさとは何かを見つけることができたら英気を養い、再び自分を見つめる。この循環を繰り返すことにより、疲れ果てた自分を癒やすセルフケアが実現し、自分だけのウェルネスを手に入れることができるのではないでしょうか。 日常を離れてリトリートに行くことで自分自身を感じ、見つめます。すると、自分にとっての最善の健康であるオプティマムヘルス、さらには自分だけの最善の人生、オプティマムライフに気付くことができます。

自分に合ったリトリートを探す10の視点


現代人に必要なリトリートですが、日常から離れることができればどこでも良いというわけではありません。自分に合ったリトリートを探すことが重要です。

<優先順位を明確にする>

「二拠点生活をしたいから、首都圏から離れすぎていないことが条件」

「近くに温泉が欲しい」

「海の見える場所がい」

など、自分にとっての譲れない条件をはっきりさせましょう。その上で、譲歩できる点を明確にすることも大切です。

<自分自身に合っているかを確認する>

ストレスから離れるためのリトリートなのに、そこで新たなストレスを抱えては意味がありません。他の誰かにとっての素晴らしい場所が、自分にとっての良い場所とも限りません。例えば「自然を楽しみたいけれど虫がいるのはどうしても我慢できない」など、自分に合わない場所は避けるべきでしょう。

<得意分野、好きなことを生かす>

ガーデニングが好きなら畑が作れるような広い土地を、DIYが好きなら古い家を自分でリフォームするなど、その土地で情熱を持って取り組めることがあれば、より充実した暮らしができます。

<コミュニティを大切に>

都会生活をしている人は特に、「煩わしい人間関係から離れたい」と思う気持ちがあるかもしれません。しかし、人里離れた地では誰の助けを借りることもできず、たちまち生活が行き詰まってしまうこともあります。自然に溢れた環境では、地域コミュニティによる助け合いが欠かせないということも覚えておきましょう。

リトリートの見つけ方次第では、それが大きな後悔にも生きがいにもなります。旅としてのリトリートなら場所の選択を誤っても次回に役立てれば良いのですが、自分の拠点としての隠れ家をつくるとなるとそうはいきませんよね。上記を踏まえた上で、自分に合ったリトリートを見つける10の視点を紹介しましょう。

【自分に合ったリトリートを見つける10の視点】

  1. 山と海…自分にとって好ましい自然は山と海のどちらなのか
  2. 定住か二拠点生活か…都会から完全に生活拠点を移すのか、週末や休暇を過ごす場所を作るのか
  3. 孤独と集団…一人、もしくは家族で過ごしたいのか。仲間と過ごしたいのか
  4. 運営・経営と休暇・気分転換…新たな経済活動を始めたいのか、休養のみか
  5. 居住単独と居住+α…居住が目的か、そこで何か生産的な活動をするのか
  6. 地域コミュニティとの接点…地域コミュニティに溶け込めそうか
  7. 公共交通機関の有無…電車やバスなどが整備されていることを条件とするか、自家用車のみで良しとするか
  8. 故郷の有無…都会以外の故郷があるか。さらに故郷をリトリート先とするかどうか
  9. 世代や家族の状況…子どもがいる場合は近隣に学校や保育園があるかどうか
  10. 農業・アウトドア経験の有無と程度…自然の中で暮らしていける技術があるか

リトリートで心身を癒やし、自分自身を見つめ直すことでオプティマムヘルスを完成させることができます。自分自身が最高の健康状態にあれば、好きなことや得意なこと、収入が得られることなど新たな生きがいを見つけることもできるかもしれません。 自然が足りない状態では、人間の心身は少しずつ疲弊し傷つけられてしまいます。病名の付かない不調や下を向きがちな心は、自分の中に自然が欠乏している証拠です。全ての文明を捨てて自然とともに生きることが不可能な時代だからこそ、よみがえる場としてのリトリートが必要なのです。

この記事の監修者
朝霧高原診療所 院長 昭和大学医学部客員教授 山本 竜隆(やまもと たつたか)

聖マリアンナ医科大学、昭和大学医学部大学院卒業。医師・医学博士。地域医療とヘルスツーリズムの両輪で、地域活性や自然欠乏症候群の提唱などの活動をしている。富士箱根伊豆国立公園に位置する滞在施設「日月倶楽部」では、ヨガや瞑想などのマインドフルネス、企業の健康管理者への指導など雄大な自然環境に身を置いて行う各種滞在プログラムを提供している。
[朝霧高原診療所] https://www.asagiri-kogen-clinic.com/
[日月倶楽部] https://hitsuki-club.com/


ライター 濱岡 操緒(はまおか みさお)

大学卒業後、大手ゲーム会社に就職。広報宣伝部にて主に社内報や広報誌などの編集主幹を務める。退職後は母親向けの媒体、ウエディング関連の媒体などを手掛ける編集プロダクションに所属。現在はフリーランスとして書籍・雑誌・WEBメディアなどの編集・執筆、撮影ディレクションなど幅広く活動中。プライベートでは1児の母。最近の健康習慣は、ミトコンドリア活性化。

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