イタリアン・テルメから学ぶ予防医学・統合医療【1】
日本は、言わずと知れた世界屈指の温泉大国。全国にある温泉地の数は約3000、源泉総数は約28000iにも数えられ、温泉は日本人にとって非常に身近な存在です。
温泉というと、日本では癒やしやリラクゼーションのイメージを抱く人は多いものですが、それだけでなく予防医学や統合医療で期待できる側面もあります。今回は温泉療法が盛んなイタリアにスポットを当て、温泉が持つ“力”についてひもといていきましょう。
i 環境省「令和2年度温泉利用状況」
イタリアの温泉「テルメ」とは?
「TERME(テルメ)」とは温泉、湯治場、温泉施設で、治療のための療養の場、かつ健康増進と病気予防の場のこと。イタリア半島では既に大ギリシャ時代に温泉が発見されており、当時の源泉は今でも温泉療法の施設として多数現存しています。
日本では“温泉”というと主に熱いお湯に入浴することを指しますが、テルメは治療効果のある鉱泉水を処方に従って飲む飲泉、鉱泉水に長期に浸した火山泥を体に塗るファンゴ、そして天然の湿気のある温かい洞窟内の蒸気を浴するグロッタが特徴。他にも温泉浴、吸入、ハイドロマッサージ、灌中などの鉱泉水を用いた治療法に加え、マッサージ療法、運動療法など多種のプログラムをテルメで受けることができます。それぞれの温泉療法については、後ほど詳しく紹介しましょう。
テルメはただの入浴施設ではない。厳密な法規定のもとにある一医療
イタリアにおける温泉療法は、鉱泉水を用いてさまざまな手法で治療を行う一医療分野であり、温泉と気候を用いることから自然療法の一つと捉えられています。そして、科学的手法で治療効果を示す必要もあります。各手法において薬理学的作用、作用機序、効果効能、適応、禁忌、焼く要領、併用効果がエビデンスとして示されることが求められており、温泉療法は医師の管理のもとで処方され、温泉施設の要件として備えるべき設備や人事は各地域の保健衛生管理所で定められています。テルメであるためには厳密な法規定があり、鉱泉の成分、泉質、微生物、水源、治療効果などについてイタリア厚生省で定めた規定にのっとっていなければならないのです。
イタリアでは、ミネラルウォーターも温泉療法であるのを知っていますか? 単なるミネラル分を含む瓶詰めされた水を指すのではなく、ミネラルを含み、かつ治療効果のある水で、その治療効果はエビデンスとして示さなければなりません。
治療効果が証明されたミネラルウォーターを用いた飲泉も、イタリアの温泉療法の大きな特徴。ミネラルウォーターは治療・栄養補給・および衛生向上の作用機序のあるもので、適応疾患においてその分量と回数、飲み方を処方される治療法です。
イタリアン・テルメ ~温泉療法の種類~
イタリア厚生省によると、温泉療法の適応疾患は以下の通り。
- 慢性の変性退行性疾患
- 運動器疾患
- リウマチ
- 耳鼻咽喉科系
- 呼吸器系
- 消化器系
- 婦人科系
- 循環器系
- 泌尿器系
- 皮膚科系疾患
これらの疾患の治療として施される温泉療法について、それぞれ詳しく見ていきましょう。
<温泉療法>
温泉施設で行われる治療法。日光浴、大気浴、森林浴などの気候療法も含まれ、温泉施設で行われる治療全てを指します。
<飲泉療法>
ミネラルウォーターを治療目的で飲む治療法。泉質により適応疾患が決まっており、医師から飲み方が処方されます。イタリア全土に飲泉療法を行うテルメ施設があり、その数は400以上。
<ファンゴ>
「ファンゴ」とは火山泥を鉱泉水に半年~1年以上浸漬し、鉱泉成分を含ませたもののこと。この熟成させた火山泥を体に塗り、発汗、解毒、鉱泉成分の吸収などを通して運動器をはじめ種々の不調を治す治療法です。作用機序は血行動態、内分泌系、代謝系、免疫系への作用で抗炎症効果、鎮痛効果があります。
<温浴>
日本における温泉の利用法と似ていますが、イタリアでは日本よりも低めの水温が好まれ40~42℃、20℃の温泉プールも多くあり、水着を着用して入ります。
<水マッサージ(ハイドロマッサージ)>
温泉水をシャワーのように浴びる療法。水温や水圧を変化させ、体全体に水が当てられます。マッサージ効果による血流促進、ミネラル分の経皮吸収、マイナスイオン効果などがあります。
<グロッタ>
洞窟浴。天然の洞窟内で椅子に腰を掛けて過ごし、発汗を促進し、洞窟の蒸気に含まれる鉱泉成分を吸収する治療法。適応はストレス軽減や疲労回復などから退行性関節疾患、リウマチ性炎症、代謝疾患、慢性呼吸器疾患などがあります。
<吸入>
鼻や口から鉱泉水または蒸気を吸入する治療法で、呼吸器疾患、アレルギーなどに適応しています。
<灌注>
中耳、膣、腸、鼻腔などに37~40℃、口腔には42~47℃の鉱泉水を注入する治療法。
いかがでしたか? イタリアにおけるテルメの位置付けは、日本の温泉のそれとは大きく異なることが理解できたのではないでしょうか? 次回は、日本の温泉の可能性について考えてみましょう。
この記事の監修者
朝霧高原診療所 院長 昭和大学医学部客員教授 山本 竜隆
聖マリアンナ医科大学、昭和大学医学部大学院卒業。医師・医学博士。地域医療とヘルスツーリズムの両輪で、地域活性や自然欠乏症候群の提唱などの活動をしている。富士箱根伊豆国立公園に位置する滞在施設「日月倶楽部」では、ヨガや瞑想などのマインドフルネス、企業の健康管理者への指導など雄大な自然環境に身を置いて行う各種滞在プログラムを提供している。
[朝霧高原診療所] https://www.asagiri-kogen-clinic.com/
[日月倶楽部] https://hitsuki-club.com/
ライター 濱岡 操緒
大学卒業後、大手ゲーム会社に就職。広報宣伝部にて主に社内報や広報誌などの編集主幹を務める。退職後は母親向けの媒体、ウエディング関連の媒体などを手掛ける編集プロダクションに所属。現在はフリーランスとして書籍・雑誌・WEBメディアなどの編集・執筆、撮影ディレクションなど幅広く活動中。プライベートでは1児の母。最近の健康習慣は、ミトコンドリア活性化。