イタリアン・テルメから学ぶ予防医学・統合医療【3】

近年、健康観の多様化や健康意識の向上に伴い、現代西洋医学以外の食品や治療方法を導入する国民の割合は増えています。統合医療についてはこれまでのコラムでも何度もお話してきましたが、改めてイタリアン・テルメの視点で、統合医療について解説、整理していきましょう。

代替医療とは?


統合医療を説明する前に、まずは代替医療について触れなければなりません。代替医療は、現代西洋医学領域外の医学・医療体系の総称。

代替医療の種類としては、

  • 東洋医学(漢方、鍼灸、気功など)全般
  • 食養生
  • アーユルヴェーダ
  • ユナニ医学
  • ホメオパシー
  • アロマセラピー
  • バイオフィードバック
  • 催眠瞑想
  • 色彩療法
  • 温泉療法
  • 呼吸法
  • 太極拳
  • 波動医学
  • カイロプラクティック
  • オステオパシー
  • マッサージ
  • 各種サプリメント
  • エネルギーワーク
  • 宗教的治癒

などの他、さまざまな民間療法や医療としてはまだ認知されていない現代科学的最先端医学など、幅広い医療分野や手技を含みます。

そして、代替医療のみならず現代西洋医学をも含めた医療の提供としてあるのが統合医療なのです。

統合医療について


統合医療という言葉が頻繁に用いられるようになってきたと同時に、代替医療と統合医療が混同されて用いられることが多くなりました。

統合医療は単に西洋医学と相補・代替医療を併せたものではなく、根底にあるものの見方(哲学)や、患者と医療従事者との関係性構築などが重要な要素となっています。また、患者や健康生活者の積極的な関与のもとで、個々のケースに合わせて現代西洋医学に代替医療を最適にコーディネートするのが統合医療です。

ただし、現代西洋医学と代替医療を単に合わせて考慮・実践するだけではなく、治療医学と予防医学、病名や症状などに基づく集団を対象にした医療と、それらを有する個を対象にした医療の融合、客観的データに基づく医療と満足度を重視する医療、日本の場合は制度上の点で保険診療と自由診療、この他、精神的対応と肉体的対応、受動的医療と能動的医療、対症療法と根治療法、短期的対応と長期的対応、個人的対応と社会的対応など、幅広く多角的な観察や検討が必要な医療なのです。

この点で、イタリアをはじめとした欧州の温泉医療は、現代西洋医学とその他の代替医療、そして個人差や地域性などを考慮したまさしく統合医療だといえるでしょう。イタリアの温泉医学の視察を通していえることは、それらが単なる温泉療法ではなく、転地療法や自然との調和、現代医学との融合、他の自然療法・代替療法の利用など、まさに統合医療的な配慮がされていたということです。

日本における統合医療の発展と温泉医学


日本人の代替医療利用率は年々高くなってきており、多くの人がその治療に満足しているということは過去の調査でも明らかになっています。また、保険診療のみを希望する人は少なく、保険診療と自由診療の併用を希望した患者が多く、検査や治療方法などを幅広く希望する統合医療的診療の希望の割合も多かったのです。これは、日本人が現代医学も含めた幅広い医療への期待があることを示唆しているといえるでしょう。

医療機関として日本で合法的かつスムーズに統合医療を行うには、まず法制度やハードの側面で保健医療機関と自由医療機関を併設することが求められます。そして、将来の統合医療機関は専門性の高い医療機関と、全体的な対応を行う家庭医や総合心療内科的な、もしくは予防・健康増進の医療機関に分かれて発展すると思われます。さらにこれらが都市型・通院型と、宿泊・滞在型に分けられていくのではないでしょうか。

専門性の高い医療機関とはがんやアレルギー、関節疾患などを専門とする所ですが、私は今後の統合医療の発展する分野で、かつ温泉医学と密接に関わってくるのは家庭医や総合心療内科、もしくは予防・健康増進の医療機関で、かつ宿泊型であると考えます。

欧州にはこのようなスタイルの医療機関が質・量ともに充実しており、ここにイタリアをはじめとした欧州の医療機関から学ぶところが多いと考えている理由があります。日本においてもできるだけ早い時期に、このような施設とシステムが構築されることを期待しています。

特に予防・健康増進領域の宿泊型統合医療施設は、温泉や食事との関わりが重要ですが、そもそもこのような医学的介入やアプローチの仕方は、伝統医学では一般的なことでした。現代西洋医学が治療医学中心だったのに対し、多くの伝統医療が養生医学を基盤にしていたからです。 日本には東洋の文化、独自の文化や歴史を有する一方で、現代西洋医学もある一定レベルに達しています。これら両者が存在する環境にあって、さらに日本人は「衆知を集める」能力に長けている民族でもあると思うのです。つまり、その環境さえ与えられれば、世界に誇る高いレベルの統合医療構築が可能であると考えています。

この記事の監修者
朝霧高原診療所 院長 昭和大学医学部客員教授 山本 竜隆(やまもと たつたか)

聖マリアンナ医科大学、昭和大学医学部大学院卒業。医師・医学博士。地域医療とヘルスツーリズムの両輪で、地域活性や自然欠乏症候群の提唱などの活動をしている。富士箱根伊豆国立公園に位置する滞在施設「日月倶楽部」では、ヨガや瞑想などのマインドフルネス、企業の健康管理者への指導など雄大な自然環境に身を置いて行う各種滞在プログラムを提供している。
[朝霧高原診療所] https://www.asagiri-kogen-clinic.com/
[日月倶楽部] https://hitsuki-club.com/


ライター 濱岡 操緒(はまおか みさお)

大学卒業後、大手ゲーム会社に就職。広報宣伝部にて主に社内報や広報誌などの編集主幹を務める。退職後は母親向けの媒体、ウエディング関連の媒体などを手掛ける編集プロダクションに所属。現在はフリーランスとして書籍・雑誌・WEBメディアなどの編集・執筆、撮影ディレクションなど幅広く活動中。プライベートでは1児の母。最近の健康習慣は、ミトコンドリア活性化。

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