21世紀型の医療 ~「統合医療」で生きる力を呼びさます~
近年、国民の健康に対する関心はますます高まり、自然療法・民間療法・代替医療・全人的医療などの言葉を見聞きするようになりました。各メディアやインターネット上においては、健康に関するさまざまな情報が流布されるとともに、健康食品や健康機器、美容・痩身、あるいは各種療法や予防医学などに関する健康産業分野は昨今の経済不況化にもかかわらず、右肩上がりの成長を続けています。
このような国民の健康志向の高まりは、
- 西洋医学だけでは十分な治療効果が得られないという不満や不信
- 生活習慣に起因する疾病や未病の段階での対応
- 医療費の高騰や保険財政の悪化に伴う個人レベルでの対策
などがその背景にあるのでしょう。
これからの時代に求められるのは、現在のような“個性を重視しない一律の医療”ではなく“個性を考慮した、人それぞれの医療”に移行すること。目指すべきは「統合医療」です。
自分にとって最適な医療・統合医療とは?
統合医療とは、現代西洋医学とそれ以外の東洋医学や代替医療を個々の患者に合わせて総合的に扱う医療のこと。“統合”という言葉の意味は“いくつかのものを一つにまとめて再構築すること”であり、単なる寄せ集めではなく“全体として一筋のつながりを持たせる”ことです。
患者の心身の状態を可能な限り正確に診断するこれまでの医学を前提に、各人がどのような健康観や人生観を持ち、どのような治療を望んでいるか、または望んでいないかを的確につかみ、かつここに最適な医療を提供することが統合医療のあるべき姿です。そのために必要となるのが、医療従事者のホリスティック(総体的)な健康観。「病気でない状態が健康である」「血液や尿や細胞組織の検査結果が正常値の範囲内であれば健康である」といった否定的だったり消極的だったりといった定義ではなく、「精神・身体・環境が程よく調和し、与えられている条件において最良のクオリティ・オブ・ライフ(Quality of Life)を得ている状態」を健康と考える姿勢が必要です。
統合医療の重要な要素となる「代替医療」
代替医療とは、現代西洋医学領域外の医学・医療体系の総称。
- 東洋医学(漢方、鍼灸、気功など)全般
- 食養生
- アーユルヴェーダ
- ユナニ医学
- ホメオパシー
- アロマテラピー
- バイオフィードバック
- 催眠瞑想術
- 色彩療法
- 温泉療法
- 呼吸法
- 太極拳
- 波動医学
- カイロプラクティック
- オステオパシー
- マッサージ
- 各種サプリメント
- エネルギーワーク
- 宗教的治癒
などの他、ニューサイエンス、ニューエイジと呼ばれる民間療法、医療としてはまだ認知されていない最先端医学なども含まれます。
代替医療には、次のような特徴があります。
- 自然治癒力の向上を目指す
- ライフスタイルの改善を促す
- 個人差を重視し個別的な有効性を評価する
そして、臨床現場では多種多様な療法の中から個々の患者の希望に沿って
- 有効性…役に立つこと
- 近接性…身近であること
- 受容性…受け止めやすいこと
という3つの要件を満たす最適な療法を選択していきます。つまり、患者の治癒力を高めるのに適していると思われる各種療法を、可能な限り選択肢として用意しておくことが統合医療の要になるということ。
「ホリスティックな観点に立ち、これまでの現代西洋医学と非西洋医学・医療の中から、個々の患者にとって最適な治療法を用いて、治療・予防・QOLの向上に向けて総合的にアプローチする」のが、統合医療なのです。
今の日本において、ホリスティックな健康情報や多様化する国民の健康観の面では、統合医療の土壌は育ちつつあるといえます。しかし、医療機関における予防医学的な機能は十分ではなく、せいぜい「早期発見・早期治療」という二次予防的な機能だけが期待できる程度。欧米のそれに比べると遅れているといっても過言ではないでしょう。
予防と治療、健康増進に寄与する統合医療
統合医療においては、二次予防のみならず「健康増進・疫病予防」という一次予防や、「機能障害防止・リハビリ」などの三次予防までカバーする必要があります。未病の段階でのケアや再発防止のための体質改善などができる医療施設は、今の日本にどれだけあるでしょうか。
<一次予防> 「検査では正常だがつらい」 「健康維持を希望している」 「いつまでもきれいでいたい」 「最近少し太り気味で食生活を改善したい」といったケース <二次予防> 「骨粗しょう症を改善していきたい」 「現在、降圧剤を服用しているが、自然の薬品に変えていきたい」といった事柄 <三次予防> 「手術でがんを取り、現在も通院中だが、がんを作った土壌である心身を改善したい」 「脳梗塞後遺症の軽減と再発防止のために、体質改善をしたい」といったニーズ |
統合医療の理念に立てば、対象となるのは“病人”だけでなく、検査結果では異状がない人、何となく不調が続く人、あるいは病気にならないような生活習慣を心掛けたいと望む健康生活者まで含まれます。個々の患者の健康観・年齢・性別・病名・経済的背景・社会的背景・感性・宗教観・心理的状態・好み・家族の意見…このような患者個々の因子を医療従事者が総合的に把握し、その人が望む医療スタイルに最適な療法を提供していく。これが、望ましい成果をもたらす統合医療の在り方なのです。
この記事の監修者
朝霧高原診療所 院長 昭和大学医学部客員教授 山本 竜隆
聖マリアンナ医科大学、昭和大学医学部大学院卒業。医師・医学博士。地域医療とヘルスツーリズムの両輪で、地域活性や自然欠乏症候群の提唱などの活動をしている。富士箱根伊豆国立公園に位置する滞在施設「日月倶楽部」では、ヨガや瞑想などのマインドフルネス、企業の健康管理者への指導など雄大な自然環境に身を置いて行う各種滞在プログラムを提供している。
[朝霧高原診療所] https://www.asagiri-kogen-clinic.com/
[日月倶楽部] https://hitsuki-club.com/
ライター 濱岡 操緒
大学卒業後、大手ゲーム会社に就職。広報宣伝部にて主に社内報や広報誌などの編集主幹を務める。退職後は母親向けの媒体、ウエディング関連の媒体などを手掛ける編集プロダクションに所属。現在はフリーランスとして書籍・雑誌・WEBメディアなどの編集・執筆、撮影ディレクションなど幅広く活動中。プライベートでは1児の母。最近の健康習慣は、ミトコンドリア活性化。