8月7日が立秋? まだ夏でしょ!

 「二十四節気」ということばをご存知でしょうか。立春、春分、夏至、立秋、冬至など……これらは二十四節気の代表的なものです。その一つ、「立春」は2月3日なのですが、この日に「今日は立春です」って言われても、「ええっ? 2月の初めなのにもう春?」って感じたことはありませんか? 立秋は8月7日なのですが、これも「ええっ? 8月なのに秋?」と違和感を感じるでしょう。

 実は「二十四節気」というのは古代中国の中部、黄河周辺から使われてきた季節の区分法です。日本が〝月の満ち欠け〟を基準にした陰暦から、西洋の暦法にならって〝太陽の運行〟を軸にした暦法に変えた際に、近隣の中国に〝太陽の運行〟を軸にした季節区分法があることを知り、それを取り入れたため、かの地の気候風土とズレが生じてしまったわけです。

 ただ、そのズレはともかく、日本では、春夏秋冬といった四季よりも細かい二十四節気という季節の区分法とその軸にある陰陽五行説いんようごぎょうをならって、その時季ごとにいろいろな習慣や行事が行なわれてきました。しかもそのほとんどが各時季の自然の変化に合わせた健康志向を目指したものなのです。前回までに「人間は、自然から遠ざかるほど病気に近づく」「ときどきは自然の中に身を置こう!」と〝自然と共生する〟ことのたいせつさを述べてきましたが、健康志向の軸に〝自然との共生〟を置く生活習慣は、昔から日本人の日々の生活に大きな影響を与えてきたのです。

〝ぼたもち〟と〝おはぎ〟の違い、知ってますか?

 春分(春のお彼岸)にはぼたもちを食べ、秋分(秋のお彼岸)にはおはぎを食べるとされていますが、実はこの二つ、まったく同じものです。ぼたもち=牡丹餅、おはぎ=御萩、つまり同じものをその季節に咲く花に合わせて言い方を変えただけなのですが、これは小豆あずきの赤い色が邪気をはらい健康長寿を保証するとされているからです。

 端午の節句(5月5日)では菖蒲しょうぶ湯に入り、柏餅やちまきを食べます。菖蒲は尚武に通じ、とくに男の子は頑健な大人になると言われています。重陽ちょうようの節句(9月9日)は〝菊の節句〟と言われ、全国各地で菊まつりが行なわれ、菊ごはんや菊の酢の物などをを食べると健康になるとされています。

 「六日の菖蒲(あやめ)、十日の菊」ということわざがあります。5月5日の菖蒲、9月9日の菊は健康に効果があるが、一日遅れの菖蒲や菊では効果がなくなるということから、何ごともタイミングをはずさないことが肝要だという意味になります。筆者も12月26日にクリスマスケーキをもらったことがありますが、たしかに気分は複雑でした。このことわざもそれぞれの時季を重視する風習のゆえんでしょうか。 このようにそれぞれの時季の習慣や行事は、その時季にするべきこと、食べるべきもの、使うべき植物などがいろいろと勧められているのです。

一陽来復。運が向いてきますよ!

 もうすぐ冬至ですね(今年は12月21日)。冬至は1年のうちでもっとも夜が長い日です。ということは、その後は昼間、つまりお日さまが出ている時間が次第に増える、すなわち〝陰〟の季節から〝陽〟の季節にどんどんなっていくというわけです。このことから「一陽来復」という四字熟語は冬至のことを指すようになりました。〝陽〟つまり運がまた向いてくるよという意味です。

 冬至にはゆず湯に入り、かぼちゃこんにゃく、そして冬至がゆを食べる習慣があります。ゆず湯に入ると風邪を引かなくなるし、黄色には古来、魔除けの意味があります。黄色いかぼちゃも同様で、しかもかぼちゃは体を温める効果があり、こんにゃくには食物繊維が多く便秘や悪玉コレステロールを除去する働きがあります。

 このように、親や祖父母たちの言う習慣になにげなく従ってきた風習も、知ってみればみんなそれぞれの時季に合った食べものや自然との共生が軸になって健康と長寿を願ったものだったというのがおわかりいただけるのではないでしょうか。

この記事の監修者
朝霧高原診療所 院長 昭和大学医学部客員教授 山本 竜隆(やまもと たつたか)

聖マリアンナ医科大学、昭和大学医学部大学院卒業。医師・医学博士。地域医療とヘルスツーリズムの両輪で、地域活性や自然欠乏症候群の提唱などの活動をしている。富士箱根伊豆国立公園に位置する滞在施設「日月倶楽部」では、ヨガや瞑想などのマインドフルネス、企業の健康管理者への指導など雄大な自然環境に身を置いて行う各種滞在プログラムを提供している。
[朝霧高原診療所] https://www.asagiri-kogen-clinic.com/
[日月倶楽部] https://hitsuki-club.com/


ライター有坂 誠人(ありさか まさと)

国際基督教大学(ICU)卒業。長年代々木ゼミナールで国語の講師を務め、ルポライター時代の経験を生かした講義とその温かい人柄で、受験生はもちろん、マスコミのあいだでも「受験の神様」として圧倒的な支持を受けていた。学習参考書も多数出版。退職後は一般書の著述や地方講演でも活動している。著書に「現代文速解・例の方法」「受験生活指導要領」「図解雑学 経営のしくみ」など。

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