病気ではないけれど、健康でもない。日本人が健康を実感できない理由

もし、いま「健康ですか?」と聞かれたら、胸を張って「健康です」と答えることができますか? おそらく、「健康とはいえないけれど、病気というわけでもない」と答える人が多いのではないでしょうか。朝起きたときに体が重い、ときどき頭痛がある、寝不足…。診察や治療を受けるような病気ではないけれど、何となく優れないという現代人のなんと多いことか。

次に挙げた項目で、自分に当てはまるものはあるでしょうか。心当たりがあっても「病気ではないから大丈夫」と考えていませんか?

  • 睡眠時間が6時間以下でも問題ない
  • 毎日帰宅が深夜になるが、休日に寝だめすれば回復できると思っている
  • 昼夜が逆転した生活でも慣れてしまえば支障はない
  • 帰りが遅いので夕食の時間も遅いが仕方ない
  • 胸がどきどきしたり、頭がクラクラしたりすることがあっても、一定時間を過ぎれば平常通りに戻るなら騒ぎ立てることはない
  • 胃がムカムカするのはよくあること。市販の胃薬で対処すれば良い
  • 肩こりや腰痛は年齢のせいだから仕方ない
  • 慢性的な頭痛があるが鎮痛剤で抑えられるので大丈夫
  • 飲酒には弊害以上にストレス解消の効果があると思う
  • 健康上の問題はいろいろあるが、もっとひどい状態の人が身近で元気に働いているので、くよくよ悩むことはない
  • あちこち調子が悪いことを含めて、それが自分の体調だ

これらの項目は、医師の立場から見れば全て異常。検査をしたり生活を見直したり、ゆっくり体を休めてほしいと思うことばかりです。

東洋医学では、まだ病気になっていない発病前の状態を「未病」と呼びます。体の状態を健康か病気かの白と黒に分けるのではなく、健康な状態から病気までを一続きのグラデーションと捉え、淡いものから濃いものまでのグレーの状態を未病と考えます。しかし、未病を自覚している人はごくわずか。それどころか、黒に限りなく近い濃いグレーの状態であっても「大丈夫」と主張する人が多いのです。

健康とは、心身ともに不快感がなく、日々を活力に溢れた状態で過ごせる“平常”であること。グレーの状態を普通だと思うのは、医師の立場から見ると決して正常ではありません。

自分の健康状態を“数値”で判断するのは危険


なぜ、「健康ではないけれど、病気ではないから大丈夫」と考えるのでしょうか。そこには、“数値”を健康のバロメーターとする現代人のクセが関係しています。例えば「頭がボーッとするといった自覚症状があるけれど、熱が36度台だから休む必要はない」とか「頭痛やめまいがあっても、血圧が130を超えていないから大丈夫」といったように、一般的な正常値を健康を判断する基準にしているのです。しかし、この正常値というのは全ての人に当てはなるというわけではありません。

 数値を信頼しすぎると、本来もっているはずの身体感覚が鈍り、体が発信する危険信号を見逃す危険性があります。体調の悪さを感じて病院に行っても、何も異常が見つからないというのはよくあること。医師は「精神的なものでしょう」と告げ、休養することをアドバイスします。数値に異常がなくても異変があることは事実ですから、心身を休ませることが必要だと診断するのです。

自らの過信で病気を引き寄せてしまうことはあります。「きっと大丈夫」と生活を改めようとしなかった結果、どんどん健康状態が悪くなり、ある日突然倒れてしまうといったことも起こりかねません。

目指すところは人それぞれ違う!「オプティマムヘルス」という健康観


とはいえ、皆さんも健康に全く関心がないというわけではないですよね。ネットで有益な情報を検索したり、知人からの情報を頼りにしたり、むしろ健康になりたいと意識する人の方が多いはずです。でも、その情報の信頼性に関してはどうでしょうか? ネットで得た情報をうのみにする人は少なくなりましたが、身近な人の“オススメ”については真に受けてしまう傾向にあるようです。成果が目に見えることで信頼感を得るのでしょうが、人の体は千差万別。他人と自分とが同じように健康効果が得られるとは限りません。

アメリカ発祥の「オプティマムヘルス」(optimum health)という言葉を知っていますか? 直訳すると「最高の健康」「至適な健康」という意味で、それぞれの人にとっての「最高・最善であり最適な健康状態」を目指す健康観のこと。生活環境や年齢、文化、価値観は人によって異なります。それぞれが自分の置かれた環境・状況の中で適切な習慣や生き方を選び、その人なりの最も良い健康を実現していくことがオプティマムヘルスの目指すところです。「これが良い」という絶対的なものがあるわけではなく、人それぞれ目指すものは違います。 オプティマムヘルスで何より重要なのは、“自分を知ること”。だからこそ、自分の声に耳を傾けることが必要です。数値だけでなく体が発信するサインに耳を傾けること、自分の体感を重視することが、健康を保つためには大切なのです。

この記事の監修者
朝霧高原診療所 院長 昭和大学医学部客員教授 山本 竜隆(やまもと たつたか)

聖マリアンナ医科大学、昭和大学医学部大学院卒業。医師・医学博士。地域医療とヘルスツーリズムの両輪で、地域活性や自然欠乏症候群の提唱などの活動をしている。富士箱根伊豆国立公園に位置する滞在施設「日月倶楽部」では、ヨガや瞑想などのマインドフルネス、企業の健康管理者への指導など雄大な自然環境に身を置いて行う各種滞在プログラムを提供している。
[朝霧高原診療所] https://www.asagiri-kogen-clinic.com/
[日月倶楽部] https://hitsuki-club.com/


ライター 濱岡 操緒はまおか みさお

大学卒業後、大手ゲーム会社に就職。広報宣伝部にて主に社内報や広報誌などの編集主幹を務める。退職後は母親向けの媒体、ウエディング関連の媒体などを手掛ける編集プロダクションに所属。現在はフリーランスとして書籍・雑誌・WEBメディアなどの編集・執筆、撮影ディレクションなど幅広く活動中。プライベートでは1児の母。最近の健康習慣は、ミトコンドリア活性化。

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