世界の統合医療【2】ヨーロッパ ~生活の一部として根付く代替医療~

アメリカ同様、ヨーロッパもまた代替医療の先進国です。1987年に行われた9つののヨーロッパ諸国における研究によると、国民の6~24%が補完・代替医療を受療しており、18~75%が過去に代替医療を受けたことがあるという結果が出ています。この研究から既に30年以上経過しているため、現在の受療率はさらに高いということが予測できます。

ヨーロッパ各国に共通しているのが、代替医療の研究に政府が積極的に介入しているということ。医師国家試験の試験科目として「自然療法」が導入されているドイツ、医学部のカリキュラムに「ホメオパシー」を導入しているフランスなど、代替医療の可能性や限界、有意性を示し、共通の科学的背景を確立すべく共同研究を進めています。

そして、ヨーロッパ諸国の中で最も代替医療に関心が高いのがイギリス。既に7割以上の大学の医学部に代替医療関係の機関があり、教育課程もあるといわれます。代替医薬品を使用している人は5人に1人の割合で、「西洋医薬品より代替医薬品の方が効果がある」と考える人も多くいます。また、イギリス国王・チャールズ3世は皇太子時代に代替医療(補完医療)の導入を推進し「総合医療財団」を設立。自らが総裁となり、通常医療と補完医療を統合させた統合医療の構築を目指してきました。

王室も推進するイギリスの代替医療


イギリスで最も人気のある代替医療は、ホメオパシー、鍼、整骨療法、カイロプラクティック、催眠療法。とりわけイギリス王室が援助してきたホメオパシーの人気が高く、保険適応であると同時に、王立のクリニックでは国民が無料でホメオパシーの治療を受けられるのです。

一方、スピリチュアリズム(心霊主義)の伝統もあり、スピリチュアル・ヒーリングも一般的に行われている代替医療の一つ。生体エネルギー療法に属するハンドヒーリングにスピリチュアルな要素が加わったもので、心と体、魂に働きかけるホリスティックな癒しの技です。科学的裏付けがないにも関わらず、イギリスの医療の中に自然に溶け込み、多くの場合保険適用もなされています。

スピリチュアルな代替療法としては、「バッチフラワーレメディー」もあります。野の花や草木から作られたエッセンス(精妙なエネルギー)が入った水を飲むことによって不安や悲しみ、怒りなどのネガティブな感情を穏やかに沈め、心のバランスを取り戻す自然療法です。

ハーバリズムの発展が先進的な代替医療の背景に


植物療法(フィトテラピー)の歴史が長いヨーロッパでは、日常的にハーブが用いられています。背景にあるのは、19世紀末のフランスから始まったハーブの効用・効果を研究する「ハーバリズム」の発展があります。ハーバリズムはハーブの品質の研究、個々の植物の自然環境に最も近い条件・品種・土壌・気候・採取時の気象条件・採取後の処理から始まります。そして、内用のための抽出方法、内用法、外用のための抽出法、外用の種類と方法、ハーブの効用効果と、単品によるもの、ブレンドによる相乗・拮抗作用、ハーブの種類、組成成分による薬理作用などもその範疇に入ります。

ドイツもまた、ハーブの科学的研究が盛んで、安全性など信頼できるデータの蓄積が多いことで知られています。自然療法士制度の確立以降は、ハイルプラクティカー(自然療法士)が産科、歯科、性病科以外で患者に対してメディカルハーブなどを用いて代替医療を施すことができるようになっています。

さらに、温泉療法も盛んで、メジャーな療法としてはタラソテラピーが挙げられます。フランス厚生省によると、タラソテラピーとは「海水・海藻・海洋性気候のもつ医学的な治療効果を治療目的として利用する自然療法である」と定義しています。日本で話題となっている海藻パックや海泥を使った痩身・美肌法だけではなく、海の全ての要素を活用した自然療法です。

ヨーロッパの代替医療に共通しているのは、野草や花、鉱物などの癒やしの力、また、目に見えない生命エネルギーや自然界のエネルギーを用いた癒やしの伝統を見直そうとしているということ。先進諸国の人々が、科学至上主義だけでは解決し得ない問題に直面したことで、自然回帰の必要性を感じ、アニミズム的な知恵を再評価しようとし始めています。求められるのは、「ライフスタイル提案型」の医療。玉石混淆の中から真に有益性(有効性・近接性・受容性)のある代替医療を取捨選択し、現代西洋医学とうまく統合していくことが先進国の共通の課題だといえるでしょう。

この記事の監修者
朝霧高原診療所 院長 昭和大学医学部客員教授 山本 竜隆(やまもと たつたか)

聖マリアンナ医科大学、昭和大学医学部大学院卒業。医師・医学博士。地域医療とヘルスツーリズムの両輪で、地域活性や自然欠乏症候群の提唱などの活動をしている。富士箱根伊豆国立公園に位置する滞在施設「日月倶楽部」では、ヨガや瞑想などのマインドフルネス、企業の健康管理者への指導など雄大な自然環境に身を置いて行う各種滞在プログラムを提供している。
[朝霧高原診療所] https://www.asagiri-kogen-clinic.com/
[日月倶楽部] https://hitsuki-club.com/


ライター 濱岡 操緒(はまおか みさお)

大学卒業後、大手ゲーム会社に就職。広報宣伝部にて主に社内報や広報誌などの編集主幹を務める。退職後は母親向けの媒体、ウエディング関連の媒体などを手掛ける編集プロダクションに所属。現在はフリーランスとして書籍・雑誌・WEBメディアなどの編集・執筆、撮影ディレクションなど幅広く活動中。プライベートでは1児の母。最近の健康習慣は、ミトコンドリア活性化。

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