世界の統合医療【1】アメリカ ~国民の半数が代替医療を利用~

医療が発達している日本ですが、実は統合医療に関してはまだまだ発展途上。一方、統合医療が広く普及し、その研究や臨床応用が進んでいるのがアメリカです。今回は、統合医療の先進国の一つ、アメリカの統合医療について紹介しましょう。

アメリカは、従来の西洋医学一辺倒の医療から他の伝統医学や代替医療を見直し、いち早く基礎研究や臨床応用に取り組んでいます。氾濫する健康食品やサプリメント、さまざまな代替医療の状況把握と情報整理を行うことと、増え続ける膨大な医療費を抑制するためにアメリカ政府が乗り出したのです。 1998年度には、米国医師会が最も力を入れて取り上げたいトピックの一つとして代替医療が挙げられています。現在、米国医師会は代替医療を科学的に調査するべきであるという立場で、各医師は自分の患者がどのような代替医療を使っているかという情報を得、医師自体が代替医療についての教育を受けて、科学的裏付けのある評価をしながら患者治療にあたるように指導しているようです。

カイロプラクティックや栄養補助食品が人気


アメリカで人気が高い代替医療としては

  • カイロプラクティック
  • 鍼灸
  • 漢方
  • ハーブ療法
  • 栄養療法
  • バイオフィードバック
  • 心理療法
  • 催眠療法

など。他の先進国に比べて医薬品が割高なアメリカは、全人口の約15%が無保険者。まともな診察が受けられない国民が多いゆえ、手軽な代替療法に頼る傾向が強く、一般ニーズも高いのでしょう。

アメリカの統合医療のパイオニア・ワイル博士とは?


アメリカの統合医療の礎を作ったのが、アンドルー・ワイル氏。ワイル博士は、ハーバード大学医学校卒業後、国立精神衛生研究所研究員、ハーバード大学植物学博物館の民族精神薬理学研究員などを務め、その後、国際情報研究所の研究員として、北米・南米・アジア・アフリカなどの伝統医学やシャーマニズムをフィールドワークするという経験を積んでいます。現在はアリゾナ大学医学校社会医学部副部長、同医学統合医学プログラム部長、合衆国議会「がんの代替療法研究委員会」の評議員などを務める傍ら、自宅で自然医学および予防医学の診療にあたっています。

ワイル博士は、生体に内在する治癒メカニズム(治癒系)の働きを強化して「自発的治癒」に導くことの方が、ときに西洋医学より安全で確実、そしてより経済的であるとの視点に立って、統合医療の必要性について提唱するとともに独自のプログラムを確立しています。

ワイル博士は、統合医療について次のように述べています。

統合医療とは現代医学と代替・相補医療を最適に適合し、同時に医師と患者の関係や健康維持や疾病予防に患者自身が積極的に関与することを重視する。統合医療は患者個々を肉体とともに精神や霊的な側面を含む全体として認識して、これらの諸要素を統合的に診断・治療するものである 1997年にはアリゾナ大学の中に「統合医学プログラム」を開設し、毎年4人のフェローシップ(研究員)と数十人のアソシエイト・フェローシップ(準研究員)を募集し、世界各国から参加者を受け入れています。私も2000年から2002年にかけて、アソシエイト・フェローシップとして参加することができました。

ワイル博士のプログラムから学んだ患者と医師の関係性を重視する姿勢


統合医療というと、さまざまな代替医療をまとめて学習できるように思いがちですが、それでは“単なる寄せ集めの医療”になってしまいます。重要なのは、統合医療において各代替医療の知識や技術は“パーツ(枝葉)であり、基本理念や患者と医師(医療従事者)の関係、患者自身の積極的関与がその根幹にあるということです。

つまり、医師と患者の関係が患者の治癒系を動かす重要な要因であり、それを基盤として「患者の心の中に描いている健康観や理想の治療法を自分のものにできる」ことが医療従事者にとっての基本的な態度であることを、プログラムを通して学ぶことができました。

ワイル博士はハーブ分野が専門であるため、植物療法は各論の中でも大きなウエイトを占めていました。各ハーブに関しては症例を通して勉強するものが多く、効能や服用量、副作用や他の医薬品との相互作用、使用禁忌などを学びましたが、統合医療プログラムではこれらの知識を使って、さらに他の代替医療や患者個々の背景や価値観などを考慮して治療プランを考えるトレーニングを行いました。

ハーブは統合医療における各医療体系の中でも、重要かつ特殊な位置付けになると考えられます。世界各地の医療の一部として歴史的に用いられており、疫学的に有効性を示すデータや成分分析が明確なものも多く、代替医療・自然療法分野の中心的存在です。一方で、現代医療分野や患者・消費者側にとっても認知しやすいという特徴があります。 アメリカでは、ワイル博士などの先駆者によってサプリメントが医療現場に浸透し、ビタミン・ミネラルを中心とした栄養食事療法の中に、ハーブ・サプリメントが組み込まれています。

現在、アメリカ国民の半分以上が代替医療を利用。その多くは西洋医学を基本に、補完的あるいは病気予防として代替医療を活用しているといいます。遅まきながら日本にもその潮流は波及してきており、2012年に開催された「統合医療のありかたに関する検討会」においては、統合医療を「近代西洋医学を前提として、これに相補(補完)・代替療法や伝統医学等を組み合わせて更にQOL(Quality of Life:生活の質)を向上させる医療であり、医師主導で行うものであって、場合により多職種が協働して行うもの」と位置付けています。

この記事の監修者
朝霧高原診療所 院長 昭和大学医学部客員教授 山本 竜隆(やまもと たつたか)

聖マリアンナ医科大学、昭和大学医学部大学院卒業。医師・医学博士。地域医療とヘルスツーリズムの両輪で、地域活性や自然欠乏症候群の提唱などの活動をしている。富士箱根伊豆国立公園に位置する滞在施設「日月倶楽部」では、ヨガや瞑想などのマインドフルネス、企業の健康管理者への指導など雄大な自然環境に身を置いて行う各種滞在プログラムを提供している。
[朝霧高原診療所] https://www.asagiri-kogen-clinic.com/
[日月倶楽部] https://hitsuki-club.com/


ライター 濱岡 操緒(はまおか みさお)

大学卒業後、大手ゲーム会社に就職。広報宣伝部にて主に社内報や広報誌などの編集主幹を務める。退職後は母親向けの媒体、ウエディング関連の媒体などを手掛ける編集プロダクションに所属。現在はフリーランスとして書籍・雑誌・WEBメディアなどの編集・執筆、撮影ディレクションなど幅広く活動中。プライベートでは1児の母。最近の健康習慣は、ミトコンドリア活性化。

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