都会生活で“自然”を取り戻す。自然欠乏症候群への処方箋

自然欠乏症候群を改善するために必要なのは、“欠落した自然を取り戻す”こと。しかしこれは、簡単なようでとても難しいことです。特に都市生活者にとって、文明生活を手放して自然に戻るのは想像すらできないことでしょう。だからといって「自然を取り戻すなんて、無理」と諦める必要はありません。都会生活を手放さなくても、便利で快適な暮らしを手放さなくても、現在の生活に“自然”を取り戻すことはできるのです。これまでのコラムでお話してきた生活習慣や食事の見直しに加え、さらなる効果を得るための5つの処方箋を紹介しましょう。

処方箋1.自然を体感する


自然を体感する方法は、大きく分けて二つ。

  • 静的な対処法
    森林を散策して清浄な空気を体に取り込む、森の中で深呼吸や瞑想をするなど、感覚を研ぎ澄ましながら自然の恩恵を感じる方法。日常生活の中で行うなら、ヨガやアロマテラピーなどが良いでしょう。自分の内部に意識を向け、ゆったりとした呼吸によって体の隅々にまで新鮮な血液が運ばれているという、体の中で起きている自然の営みに注目しましょう。
  • 動的な対処法
    自然の中でアクティブに体を動かし、気分を高揚させてリフレッシュする方法。カヌーやトレイルラン、フィッシングなど自然の中で行うレジャーが当てはまります。自然の中に行く時間が取れない場合、あるいはもっと日常的に動的体感を得たい場合は公園でのジョギングやラジオ体操などの軽い運動をすると良いでしょう。運動に集中するとともに、目に入る木々に気持ちを向けると、より一層効果が上がります。

処方箋2.自分に合った場所を見つける


自然環境で心身を癒やす方法を、ミリューセラピー(環境療法)といいます。中でも気候が人体に及ぼす影響を利用し、日常生活と異なる気候環境に転地して病気の治療や保養・療養を行う自然療法として、クリマテラピー(気候療法)があります。下の表のように場所により得られる効果があるので、より自分に適した場所を選ぶときに有効です。

気候標高特徴効果
海洋性気候海抜数メートル以内気温の差が少なく湿度が高い新陳代謝促進・自律神経の安定
低地・平地気候海抜300メートル程度比較的高温、気圧が高い副交感神経を優位にし、ストレス解消・疲労回復
中山気候海抜300~1000メートル程度気温差が少なく適度な湿度で穏やか特別な禁忌はなく、幅広い気候療法の適応がある
高山気候海抜1000メートル以上低酸素・低血圧・低温で、紫外線・風速が強く厳しい負荷をかけることでぜんそく・アレルギーの解消に

処方箋3.興味のあるジャンルで楽しむ


  • 農家に滞在し、簡単な農作業をすることで自然の営みを体験する
  • アスレチックやノルディックウオーキングなど、運動を通して全身で自然を感じる
  • 嗅覚や皮膚感覚を利用するアロママッサージ
  • 天体観測など、感覚と知力で自然とつながる

など、自分にとって興味がかき立てられる分野で自然を体験できるものを見つける過程も、心身を癒やすステップになります。

処方箋4.“できる時間”で対応する


都会で働く人や周囲に木や水のない環境に住んでいるなど、暮らす環境が自然から遠ければ遠いほど、より積極的に自然を取り入れることが必要です。しかし、分かっていてもその時間が取れないという人は多いことでしょう。でも、少しずつでも良いのです。下の表を見ながら時間別の対処法を行ってみてください。

単位休みの種類内容方法
休息作業の合間に自発的に行う息抜きストレッチ、深呼吸、アロマオイル・スプレーなどで香りを楽しむ
休憩労働時間内に行う気分転換目を閉じて1分間瞑想、ストレッチ、セルフマッサージ
時間私的時間労働時間外でリフレッシュ公園散策、ヨガ、アロママッサージ、リフレクソロジー、鍼灸を受ける
週休疲労回復を行う休日ガーデニングを含むレジャー、アロマ講座などのカルチャー講習
週・月休暇心身調整、自己実現を行う保養農村体験、温泉療法、滞在プログラム受講

処方箋5.タイミングをつかむ


  • 満月~新月(月が欠けていく時期)
    古いものが排出される時期で、リセット期・デトックス期・排出期などと呼ばれます。体から余分なものを取り除きやすく、本来のバランスに整えるのに向いているといわれます。“排出”を意識して水分を取って汗や尿を出す、お通じを意識して食物繊維を取る、血液の循環を良くするマッサージや半身浴を行う、古い肌を取り除く角質ケアなどが向いています。
  • 新月~満月(月が満ちていく時期)
    体への吸収が強くなる時期で、エネルギーを吸収して蓄える時期。この時期は与えるほど体に取り込むことができるので、特別なスキンケアをするとより高い効果が得られます。逆に、水分や脂肪がたまりやすく太りやすい時期なので、食事のカロリーは控えめにすると良いでしょう。

都市生活であっても、自然を補給することは決して不可能ではありません。重要なのは、“優先順位”という価値観を常に持つこと。何が大切なのか、何が不要なのかを考えてみてください。それが、自然を取り戻す第一歩になるはずです。

この記事の監修者
朝霧高原診療所 院長 昭和大学医学部客員教授 山本 竜隆(やまもと たつたか)

聖マリアンナ医科大学、昭和大学医学部大学院卒業。医師・医学博士。地域医療とヘルスツーリズムの両輪で、地域活性や自然欠乏症候群の提唱などの活動をしている。富士箱根伊豆国立公園に位置する滞在施設「日月倶楽部」では、ヨガや瞑想などのマインドフルネス、企業の健康管理者への指導など雄大な自然環境に身を置いて行う各種滞在プログラムを提供している。
[朝霧高原診療所] https://www.asagiri-kogen-clinic.com/
[日月倶楽部] https://hitsuki-club.com/


ライター 濱岡 操緒(はまおか みさお)

大学卒業後、大手ゲーム会社に就職。広報宣伝部にて主に社内報や広報誌などの編集主幹を務める。退職後は母親向けの媒体、ウエディング関連の媒体などを手掛ける編集プロダクションに所属。現在はフリーランスとして書籍・雑誌・WEBメディアなどの編集・執筆、撮影ディレクションなど幅広く活動中。プライベートでは1児の母。最近の健康習慣は、ミトコンドリア活性化。

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