コラム監修・山本竜隆医師が目指す統合医療【1】富士山の麓で医師として活動する理由

「“健康な人ほどキレイ”の法則」で記事監修を担当する、医師の山本竜隆先生。日本における統合医療の第一人者であり、現在は地域医療と統合医療を主軸に医療活動を進めています。山本先生が院長を務める「朝霧高原診療所」は、富士山を目の前に望む静岡県の山深い場所。この地で医療活動に奔走する理由、山本先生が目指す医療について教えてもらいました。

地域コミュニティと共生しているからオンオフは必要ない


町で51年ぶりの医療機関として2009年に朝霧高原診療所を開院し、はや13年。人口よりも動物の数が多い場所ですから「患者なんて来ないんじゃない?」という声もあった中、在宅医療・訪問看護・学校医・産業医としてのニーズは想像以上に大きく、おかげさまで地域に根差した医療機関として成長することができました。でも、開院当初はこれまでの医師生活とのギャップが大きすぎて、どうしようか悩んだこともあったんです。

東京で医師として勤務していた頃は、オンオフがはっきりしていたんです。外来診療が終われば、完全にオフ。ところが、ここで私が行う医療は基本的にオフがない。24時間、365日対応できる体制でなければ意味がありません。覚悟はあったものの、診察時間外には医療用の携帯電話が鳴り、自宅まで診察を希望する患者さんが来る…。このままでは、本当にオフの時間がなくなってしまうと思ったんです。

そんな戸惑いが解消したのは、開院して数ヵ月経ったある冬の夜です。20㎝ほど雪が積もり、これ以上積もると車が動かせなくなるかもしれないと心配していました。翌朝、積雪状況を確認するためにいつもより早く起きたのですが、なんと自宅の前から診療所まできれいに除雪されている。どうやら、地域の皆さんが雪かきをしてくれたようなんです。そのときに思ったのが「診療時間中は医師として、それ以外の時間は、特技が医療の地域住民として関わろう」ということ。 そもそも、オンオフはサラリーマンの発想なんですよね。オンというのは雇用されている時間であり、あまりにも機械的な発想。農家や主婦には、オンオフなんてものはありません。そう思ったら一気に気持ちが楽になりましたし、医師としてだけでなく、住民として地域に受け入れてもらっていることに感動すら覚えました。

中学時代の鍼治療が志の原点に


朝霧高原診療所では、西洋医学による治療と養生医療を合わせた統合医療を提唱しています。日本ではまだまだ開発途上の医療ですが、私がこの分野に力を入れる理由は中学時代にまでさかのぼります。

ラグビー部だった私は、打撲や捻挫は日常茶飯事。けがをするたびに整形外科を受診し治療してもらっていたのですが、あるとき祖父の勧めで鍼灸院を訪れたんです。脈診や舌診、おなかの触診など、いつもと違う治療法に訝る気持ちがありました。ところが、1時間ほど施術を受けると、膝の痛みや肩のハリ、目の疲れが和らいでいたんです。

この経験が本当に衝撃だったのですが、ユーザーとして同時に感じたのは違う医療法を別々の機関でしか受けられないことへの疑問。また、健康保険証の在り方にも違和感があって、治療ばかりではなく健康増進や予防にこそ活用すべきなのではないかと思ったんです。それが、私が医師を志すきっかけになりました。「治療だけでなく、健康増進を広めたい。さまざまな治療法を提案できる医師になりたい」と思ったんです。 もっとも、日本は統合医療においては発展途上国。私が医学部に在籍していた当時は、日本で統合医療を学ぶには限界がありました。そんなときに出合ったのが統合医療の第一人者、アンドルー・ワイルが主催するアリゾナ大学の統合医療プログラムでした。

「病気と治療のみならず、健康と養生」が統合医療の理想形


2002年にアジア人として初のプログラム修了生となり、その後東京・四谷の「統合医療ビレッジグループ」に勤務。メディアの注目もあり、全国からたくさんの難病患者さんが治療に訪れるようになりました。しかし、そこで行うのは後追いの医療ばかり。

統合医療を実践できない挫折感に苛まれた私は、アンドルーのアドバイスでヨーロッパの田舎の医療施設を見学することにしました。この経験が、もう目からうろこで…。日本では田舎の医療過疎が問題視されていますが、ヨーロッパでは田舎ほど良い医療施設がそろっているんです。そして、自然を最大限に生かした滞在施設、医療施設、地域医療が輪となり機能しています。日本で初の統合医療施設だからこそ東京発信がいいだろうと思っていましたが、そうではなかった。そもそも、都会の真ん中で“養生”できるわけもなかったんです。

帰国してすぐ、ヨーロッパの医療モデルを参考に統合医療を実践できる場所を探し始めました。そして、5年の歳月をかけてようやくたどり着いたのが、静岡県富士宮市の猪之頭地区。広大な森と水源があること、標高が高いためアレルギーの原因物質が少ないこと、東京からのアクセスも良いという点などから、この地で自分が理想とする医療を進めようと決めました。

現在、朝霧高原診療所では内科・皮膚科・小児科・漢方内科の一般診療、健康相談、予防医療、衛生指導、東洋医学、代替医療、自然環境療法での治療を行っています。そして、統合医療実践の場として発足したのが「WELLNESS UNION」。その中の自然体感施設としてあるのが「富士山静養園」「日月倶楽部」です。WELLNESS UNIONについてはまた次回、お話しましょう。

この記事の監修者
朝霧高原診療所 院長 昭和大学医学部客員教授 山本 竜隆(やまもと たつたか)

聖マリアンナ医科大学、昭和大学医学部大学院卒業。医師・医学博士。地域医療とヘルスツーリズムの両輪で、地域活性や自然欠乏症候群の提唱などの活動をしている。富士箱根伊豆国立公園に位置する滞在施設「日月倶楽部」では、ヨガや瞑想などのマインドフルネス、企業の健康管理者への指導など雄大な自然環境に身を置いて行う各種滞在プログラムを提供している。
[朝霧高原診療所] https://www.asagiri-kogen-clinic.com/
[日月倶楽部] https://hitsuki-club.com/


ライター 濱岡 操緒(はまおか みさお)

大学卒業後、大手ゲーム会社に就職。広報宣伝部にて主に社内報や広報誌などの編集主幹を務める。退職後は母親向けの媒体、ウエディング関連の媒体などを手掛ける編集プロダクションに所属。現在はフリーランスとして書籍・雑誌・WEBメディアなどの編集・執筆、撮影ディレクションなど幅広く活動中。プライベートでは1児の母。最近の健康習慣は、ミトコンドリア活性化。

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