「自然欠乏症候群」の原因と症状。“便利”と“快適”を少しだけ手放してみませんか?
「自然欠乏障害」という言葉を知っていますか? 自然が不足することで、体の不調や何となく優れない状態に陥ることをいいます。著述家のリチャード・ループが『あなたの子どもには自然が足りない』(早川書房)で提唱した、「自然欠乏障害」から派生した言葉です。
「その不調、不自然な暮らしが原因かも。日常の“当たり前”を考え直してみませんか?」でも解説したように、人は自然から遠ざかることで健康を害し、病気に近付いてしまいます。これは、約2400年も前に近代医学の父・ヒポクラテスも指摘していること。ヒポクラテスは「人間が、ありのままの自然体で、自然の中で生活すれば、120歳まで生きられる」と考えていました。 現代人は、完全に健康と自然の関係を見失っています。その代償としてあるのが、自然欠乏症候群の症状なのです。
自然欠乏症候群の3つの症状
- 人間の感覚の収縮
人間には視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚の五感がありますが、できるだけ多くのものと接することで磨かれていきます。五感の全てを刺激するのに最適なのが自然環境。人工的な空間では自然の中ほど豊かな五感のバリエーションが得られないため、本来持つ感覚が衰え、世界を感知する能力も乏しくなってしまいます。 - 注意力散漫
自然の中では、上下左右あらゆるところから“何か”が起きます。上から虫が落ちてきたり、横から動物が飛び出したり、足元も気を付けないと木の根につまずくかもしれません。しかし都会では、このような危険に遭うことはめったにありません。安全で安心に暮らせるといえばそうなのですが、感覚を研ぎ澄ませる必要がないため鈍感になり、物事に対する注意力も衰えていきます。 - 「指向的集中」による疲労
自然の中では、五感を使って周囲に気を配る必要があります。しかしこれは「無意識の注意」。研ぎ澄まされた感覚が勝手に反応してくれるので、実際はリラックスした状態なのです。それに対して都会における集中は、意識的に何かに向けて集中する「指向的集中」。パソコン画面を見つめながら仕事をする、人ごみにもまれながら最短距離で目的地に向かう、地下鉄を間違えずに乗り継いで行く…といった行動がそれにあたり ます。指向的集中の場面が多くなると行動が衝動的になったり、イライラや焦燥感に悩まされたりといったことが生じます。神経が敏感になって脳が疲れた結果、オーバーヒートしたように注意力がなくなってしまうことも…。
自然欠乏症候群を招く4つの原因
次に、自然欠乏症候群を引き起こす原因について解説しましょう。
- 自然環境の不足
周囲に自然が少ないため「見に行く」「触れ合いに行く」といったように能動的にならない限り、自然と接することがありません。木々の緑は目に飛び込んでくるものではなく、わざわざ探すもの、あるいはどこかまで行って見つけるもの。自然の絶対数が少ないことが、自然欠乏の第一の原因です。 - 人工的な環境
自然環境が不足する一方で、人工物が私たちを取り囲んでいます。家具や建築資材、壁紙を貼るための接着剤など、そのほとんどが化学合成物質。コストの安さや扱いやすさなど経済効率優先で選ばれてきたこれらの材料は、さまざまなかたちで人間を傷めつけています。その代表的な例が、シックハウス症候群や化学物質過敏症です。 - 体内に侵入する化学物質
たばこや排気ガス、農薬に化学肥料、保存料・着色料などの合成添加物、水道水に含まれる塩素。携帯電話の電子音、電気製品が発生する電磁波、スマートフォンやテレビから発生するブルーライト…。私たちの身の回りには、自然界にはない化学物質が膨大に存在しています。ありとあらゆる化学物質が毎日、繰り返しさまざまなかたちで人体に入り込んでいるのです。 - 地球の自転を無視した生活
地球上の全ての生き物は、地球の自転に合わせて生きているといえます。ところが、現代人はどうでしょう。昼夜逆転の生活を送る人、エアコンの恩恵で年間を通して“快適な温度”で暮らす人はたくさんいます。地球のリズムを無視した生活を送ることは、やはり自然から遠ざかった姿としか言いようがありません。
いかがでしたか? 現代人がいかに不自然な生活を送っているかお分かりいただけたのではないでしょうか。そして、自然から離れるだけで、どれだけ人間に悪影響を及ぼしているかも理解できたはずです。文明の発展に伴い、人間の生活はどんどん便利で快適に変化していきました。けれども、最初にお話ししたように“自然”に反することには必ず代償が生じます。私たちは今、自分の生活を見直し“自然”を見直す必要に迫られています。もちろん、便利で快適な生活の全てを手放すことは容易なことではありません。ですから、自分のできる範囲でいいので不自然なものから離れる時間をつくってみてください。いつも感じているその不調がほんの少しでも良くなるように、心身が発する声に耳を傾けてみましょう。
この記事の監修者
朝霧高原診療所 院長 昭和大学医学部客員教授 山本 竜隆
聖マリアンナ医科大学、昭和大学医学部大学院卒業。医師・医学博士。地域医療とヘルスツーリズムの両輪で、地域活性や自然欠乏症候群の提唱などの活動をしている。富士箱根伊豆国立公園に位置する滞在施設「日月倶楽部」では、ヨガや瞑想などのマインドフルネス、企業の健康管理者への指導など雄大な自然環境に身を置いて行う各種滞在プログラムを提供している。
[朝霧高原診療所] https://www.asagiri-kogen-clinic.com/
[日月倶楽部] https://hitsuki-club.com/
ライター 濱岡 操緒
大学卒業後、大手ゲーム会社に就職。広報宣伝部にて主に社内報や広報誌などの編集主幹を務める。退職後は母親向けの媒体、ウエディング関連の媒体などを手掛ける編集プロダクションに所属。現在はフリーランスとして書籍・雑誌・WEBメディアなどの編集・執筆、撮影ディレクションなど幅広く活動中。プライベートでは1児の母。最近の健康習慣は、ミトコンドリア活性化。