その不調、不自然な暮らしが原因かも。日常の“当たり前”を考え直してみませんか?
医者として日々多くの人の健康状態に対峙していて実感するのが、都市生活者ほど健康に問題を抱える未病の人が多いということ。なぜ、このようなことが起きるのかというと…その理由の一つに“自然”があると確信しています。
食事や娯楽をはじめ、生活に必要なあらゆるものが手に入るのが現代の都市生活。しかし、便利な都市部で唯一手に入れることができないのが“自然”です。都会にも緑のある空間や公園はあるし、キャンプなど自然と触れ合える施設はありますが、私が言いたいのはそれが本物の自然ではないということ。
自然には美しく穏やかな一面がある一方で、不潔で危険な面もあれば、人間の生活に合わせてくれない不便な面もあります。都合の悪い部分を排除して快適な部分だけを味わうのは“自然”ではなく“不自然”ではないでしょうか。。健康への意識が高まっているにもかかわらず、不調を訴える人が多いのは、この“不自然”な生活にも原因があるのだと思えてなりません。
私たちの生活に溢れる“不自然”の数々…
便利で快適な都市生活を送っていると、自分自身がいかに“自然”とかけ離れた日常を送っているのかということに気が付かなくなってしまいます。現代人、特に都市生活者の不自然な暮らしとはどのようなものなのか、具体的に見ていきましょう。
【夜が訪れない街と夜型人間】
ネオンや照明が昼のように明るく街を照らし、コンビニ、飲食店、ファストフード店など深夜になっても煌々と明かりがついている場所は都市部に限らず多くあります。夜でも明るいというのは大変便利なものですが、体内時計の乱れにつながるというのは知っていますか?
人間の睡眠と覚醒のメカニズムに関わるのがメラトニンの分泌ですが、夜になって暗くなると脳の視床下部からメラトニンが分泌されて眠くなり、朝になり日光を浴びるとメラトニンの分泌が止まり目が覚めます。つまり、体内時計を正常に働かせるためには、日光が欠かせないということ。
夜になっても明るい環境にいたり、深夜までパソコンやスマートフォン、テレビの画面から強い光を浴びたりしていると、自然に備わった体内時計が狂ってしまいます。現代人に睡眠の悩みが多いのは、ここにも原因があるのです。
【暑さを感じない快適で過ごしやすい室内】
人間には本来、暑いときには汗をかいて体を冷やし、寒いときは血管を収縮させて熱を逃さないようにするといった自律神経が備わっています。自律神経が対応できる温度差は5℃以内とされていますが、特に夏場、屋内と屋外での温度差が10℃を超えることは珍しくありません。
大きすぎる温度差は自律神経の働きを乱し、頭痛や肩こり、手足の冷え、生理不順といった「冷房病」を引き起こすことがあります。また、夏でも汗をかかない温度で過ごせるというのは非常に快適なものですが、同時に汗をかく機能が衰えていくことにもなります。
【“旬”と“土地のもの”の喪失】
日本には四季があり、旬の美味があります。また、特定の地域でしか取れない果物や魚もあります。ところが今の時代、ほとんどの食べ物が季節や場所を問わずに食べることができます。
好きなときに好きなものが食べられるのは何とも幸せなことではありますが、決して“自然”な状態ではありません。日本には、「身土不二」といって“体のためには暮らしている土地のものを食べるのが良い”という食に対する考え方があります。先祖の当たり前だった食生活と、現代人のそれはあまりにも違いが大きすぎるのではないでしょうか。
【電磁波が飛び交う環境による抜けない電気】
電力供給の停止がライフラインの断絶に直結するほど電気への依存度が高い今、私たちの生活の中には電磁波を出すものが数多くあります。電磁波を多く浴びているということは、体の中に多くの電気をため込んでいる可能性が高くなります。
電磁波については解明されていない部分もありますが、それでも人体に与える影響がゼロと断言することはできるでしょうか? 皮膚がチクチクしたり、頭痛やめまいが起きたりする「電磁波過敏症」を訴える人は事実存在するのです。電気が登場してからまだ200年も経っておらず、暮らしの中に電磁波が飛び交うようになって数十年しか経っていません。人体への影響うんぬんという議論抜きにしても、人にとって不自然であるということは確かです。
【正しい呼吸ができていない】
最近、呼吸の浅い人が増えているといいます。浅い呼吸というのは、1分間に行う呼吸の回数が多いにもかかわらず、1回に吸い込む量が少ないのが特徴。肺に十分な酸素を送り込むことができないため、体の隅々まで十分な酸素が行き届かなくなります。
浅い呼吸の原因としては、パソコンを使ったデスクワークや長時間のスマートフォンの使用による姿勢の悪さ、ストレス、コロナ禍でのマスク装着による口呼吸などが挙げられます。
浅い呼吸を続けていると頭痛やめまい、疲労感、怠さ、肩こり、腰痛、免疫力低下など実にさまざまな不調を誘発します。ここ数年「呼吸法」が注目されていますが、本来、呼吸は誰かに教えてもらわなくても自然と行うことができるものです。意識しなければ正しい呼吸ができないというのは、異常なことではないでしょうか。
【地面と離れて生きる】
見上げるほどの高層ビルやマンションが立ち並ぶ都市部。地上30階を超えるタワーマンションも珍しくありません。けれど、これほど不自然な住まいがあるでしょうか? 人類の祖先が樹上から降り立ち、地上で生活を始めたのが今からおよそ800万年前。それ以降、一度たりとて樹上生活に戻った歴史はありません。
気圧は、10メートル上がるごとに1ヘクトパスカル下がりますが、人体の影響についてはどうでしょうか。健康上の心配はないと説はありますが、、妊婦の流産率の高さや子どもの成績が伸びにくかったり近視になりやすかったりというデータがあるのも事実。いずれにしろ、地上から何十メートルも離れたところで暮らすのは間違いなく不自然なことです。
【電子音に囲まれた日常】
皆さんは日頃、どんな音に囲まれて暮らしているか意識したことはありますか? 家電の動作音、テレビから流れてくる音、スマートフォンや目覚まし時計のアラーム。外に出れば店から流れてくる音楽、録音されたアナウンス、自動車のエンジン音…見事なまでに合成された音ばかりではないでしょうか。
一方、自然の中では聞こえる音の一切が変わります。風が揺らす木々の音、川のせせらぎ、草花が立てるざわめき、虫の声や鳥のさえずり。
自然は都市生活者が思う以上ににぎやかなのですが、自然の中にいて「静かだ」「落ち着く」と感じるのは先祖がずっと聞いてきた懐かしい音だからです。果たして、音と人の健康に関連性がないと言い切れるでしょうか。
この記事の監修者
朝霧高原診療所 院長 昭和大学医学部客員教授 山本 竜隆
聖マリアンナ医科大学、昭和大学医学部大学院卒業。医師・医学博士。地域医療とヘルスツーリズムの両輪で、地域活性や自然欠乏症候群の提唱などの活動をしている。富士箱根伊豆国立公園に位置する滞在施設「日月倶楽部」では、ヨガや瞑想などのマインドフルネス、企業の健康管理者への指導など雄大な自然環境に身を置いて行う各種滞在プログラムを提供している。
[朝霧高原診療所] https://www.asagiri-kogen-clinic.com/
[日月倶楽部] https://hitsuki-club.com/
ライター 濱岡 操緒
大学卒業後、大手ゲーム会社に就職。広報宣伝部にて主に社内報や広報誌などの編集主幹を務める。退職後は母親向けの媒体、ウエディング関連の媒体などを手掛ける編集プロダクションに所属。現在はフリーランスとして書籍・雑誌・WEBメディアなどの編集・執筆、撮影ディレクションなど幅広く活動中。プライベートでは1児の母。最近の健康習慣は、ミトコンドリア活性化。