「〝一日三食〟とくに朝食は必ず食べろ」ってホントにいいの?

 ごく当たり前のように言われる一日三食の実践……。これって本当にそうなのでしょうか? 実をいうと日本人は平安時代の大昔から〝一日二食〟だったんです。明治時代になって欧米の生活習慣が日本に入ってきて以降、少しずつ一日三食が日本人のあいだに広がってきたのもので、要するに比較的新しい習慣なのです。その過程で「朝食は必ず摂りなさい」という価値観が一般化してきます。

 私たちの自律神経は交感神経と副交感神経に分けられます。

  交感神経────心と体を活発に活動させるための神経。激しい活動時に活性化する。

  副交感神経──心と体を落ち着かせて休息させる神経。睡眠や食事・入浴時などに身体をリラックスさせる。

 つまり、朝食を摂るということは、心と体を休息させる副交感神経を優位にするわけですから、その直後、ほとんど時間を置かずになされる通勤・通学という行動のためには、心と体を活発に活動させるための交感神経の方をあわてて優位にしなければなりません(昼食・夕食後というのはある程度の時間的余裕が持てます)。実際に朝食後すぐに通勤・通学中、気分が悪くなったことがあるという経験をした人は少なくありません。要するに、「朝食」というのは無理して摂る必要はないということなのです。実際に朝食を抜くようになってから体調がよくなったという声はよく聞かれます。

「夕食は午後6~7時過ぎに……」これってベストなの?

 昼食は昼休み時間中に摂らざるをえないという人が多いでしょうが、夕食の方はどうでしょうか。「夕食時間だから食べる」「友人知人とのつき合いで食べる」という人が多いのではないでしょうか。「食べたくなった時に食べる」「お腹がすいたときに食べる」という人は少ないのでは……。でも実は、交感神経と副交感神経のバランスを考えると「お腹がすいたときに食べる」というスタイルがベストなのです。身体が求めるバランス要求にとっては、人間本来の自然な欲求に従って食べるほうが好ましいともいえるのです(「私の身体が求めているのは常に〝大食い〟だ」という人は別ですが……笑)。もちろん、この、自然な欲求に従って食べるスタイルを維持しつづけることは実際にはむつかしいかもしれませんが、たとえば、休み日などにそれに近い食べ方をすることがあるのではないでしょうか。できるだけそれに近い意識を頭の片隅に常に置いて生活するということくらいはできるような気がしませんか?

暗く一人で食べるのが好きな人 vs 誰かと食べるのが好きな人。

 私の知り合いに「食事はひとりで食べるのが好き」という人がいます。「友だちは? 家族は?」と聞いたら、「そういう問題じゃあないんだ。とにかく人に気を遣わずに食べるほうが好きなんだよ」と答えました。私は「ふ~ん……」と言ったきりそれ以上何も言えませんでした。この人はお店で食べるときも店の人やたまたま隣りに座った人ともほとんど会話をしないんだろうかと何か寂しい気持ちになりました。

 食事をするときは楽しく会話しながら食べる。「おいしいね」「でも君の作ったものには負けるよ」「○○屋の××はもっとおいしいよ」など……こんな会話をしながら食べるのはほんとうに楽しいものです。そしてこのリラックスした食べ方のほうが精神的にも消化吸収の面でもプラスなのだと思います。暗く一人で食べるざるをえないときもあるでしょうが、基本的には誰かと楽しく会話をしながら食べるようにしたいものです。ただ、現在はコロナ禍の影響でこの食べ方がお勧めできないのがたいへん残念でなりません。

〝ながら食い〟も避けたい食べ方です。スマホ画面を相手の〝ながら食い〟、テレビを見ながらの〝ながら食い〟、そして各家庭にありがちの、お父さんたちの、新聞を読みながらの〝ながら食い〟……これらは味もほとんど意識せず、実質的に「食事」ではなく単なる「栄養摂取」です。さらに、いま流行の〝リモート食い〟も食事の仕方としてはなんとも淋しい感じがします。コロナウイルスよ、早く地球から消えてくれ!

この記事の監修者
朝霧高原診療所 院長 昭和大学医学部客員教授 山本 竜隆(やまもと たつたか)

聖マリアンナ医科大学、昭和大学医学部大学院卒業。医師・医学博士。地域医療とヘルスツーリズムの両輪で、地域活性や自然欠乏症候群の提唱などの活動をしている。富士箱根伊豆国立公園に位置する滞在施設「日月倶楽部」では、ヨガや瞑想などのマインドフルネス、企業の健康管理者への指導など雄大な自然環境に身を置いて行う各種滞在プログラムを提供している。
[朝霧高原診療所] https://www.asagiri-kogen-clinic.com/
[日月倶楽部] https://hitsuki-club.com/


ライター有坂 誠人(ありさか まさと)

国際基督教大学(ICU)卒業。長年代々木ゼミナールで国語の講師を務め、ルポライター時代の経験を生かした講義とその温かい人柄で、受験生はもちろん、マスコミのあいだでも「受験の神様」として圧倒的な支持を受けていた。学習参考書も多数出版。退職後は一般書の著述や地方講演でも活動している。著書に「現代文速解・例の方法」「受験生活指導要領」「図解雑学 経営のしくみ」など。

関連記事