世界の統合医療【3】アジア ~統合医療に大きな影響力を与える伝統医学~

アジア圏の代替医療としては、伝統医学が挙げられます。中国やインド、ギリシャ、エジプトなどそれぞれ独自の思想体系を持ち、個々の医療体系を形作っているため、西洋医学と併用する上ではどうしても部分的・技術的な活用にならざるを得ません。しかし、方法論だけではなくその基層文化にこそ学ぶべき点が多く、各々異なる文化の中に共通してみられる“癒やしの文化”を読み解くことが、統合医学の構築にとっても重要だということを見落としてはならないでしょう。

今回は、東洋文化圏に発生した伝統医学について解説しましょう。

4000年の歴史を持つ中国伝統の「中医学」


中医学(中国の伝統医学)では古典的な医書にある身体論が根幹にあり、その基本となるのが「気」の概念。気が「陰」と「陽」、「五行」という要素から成ると考える「陰陽五行説」に基づいた疾病感が中医学の核です。

さらに、天の陽気と地の陰気とが調和することによって人の気が生成されるとする「天地人三才思想」、人の心と体とは互いに影響していると捉える「心身一如」、本格的な病になる前に対処しようとする「未病治」という考えが加わって、東洋医学の思想的な背景として確立されてきました。

病気は体内の気の流れの乱れと陰陽・五行の不調和から起こるため、病気に対しては自然と調和した生活をすることに加え、薬草治療(湯液)や気候(導引)、経穴(つぼ)刺激、鍼灸、推拿(一種のマッサージ)などを処方することによって、体内の気血の流れを整えることに主眼を置きます。その結果、血液循環や水分代謝が是正され、病気の治療や健康の維持増進ができると考えるのです。

中医学で特に重視されているのが、食養生。全体の陰・陽のバランスによる気(生命エネルギー)の補給という視点で食を捉えます。例えば「冬至かぼちゃ」の習慣には、一番寒い季節を迎えるこの時期に、体を温める働きのある食べ物(陽の気)を取ることによって病気を防ぐという中国伝来の知恵が秘められています。

紀元前12~15世紀にインドで発祥した「アーユルヴェーダ」


中医学と並んで世界的に関心を集める伝統医学の一つに、インドとその周辺諸国で行われていたアーユルヴェーダがあります。アーユルヴェーダの根底にあるのは、宇宙論。宇宙の構成要素として「空・風・火・水・地」の五元素を仮定し、人体内で3つのドーシャ「ヴァ―タ=空+風」「ピッタ=火+水」「カパ=水+地」という生命エネルギーが働くと考えられています。ドーシャのアンバランスが病気の原因と考え、そのバランスの崩れやすさを「体質」と呼びます。個々の体質に応じた食事や薬草を取ることで、病気を治療したり予防することができるというのがアーユルヴェーダの考え方です。

アーユルヴェーダの治療は、その人が本来持っている肉体・精神・魂のドーシャバランスを取り戻すことを目標とし、医師の診断と治療プランの作成から始まり、ハーブ療法や食事療法などが処方されます。基本的には、オイルを全身に塗布してマッサージし、その後サウナで発汗させた後に、浣腸などを行う浄化療法がアーユルヴェーダの特徴です。

アジア各国の伝統医学を統合した「チベット医学」


2500年から3000年の歴史があるともいわれるチベット医学は、アーユルヴェーダがチベット特有の風土の中で独自の発展を遂げたもの。チベットは中国、パキスタン、ビルマ、ネパールの接点に位置しており、古くから技術や文化の交流地になっていたことから、中医学やユナニ医学(イスラム圏の伝統医学)の影響も受けています。

「ルン(風素)」「チーパ(胆汁素)」「ペーケン(粘液素)」の3つの生体要素のバランスが保たれれば健康であり、アンバランスになると病気になると考えられています。動物の知恵を人間にも応用してきたといわれるチベット医学では薬草の他、鉱物、動物といった自然の素材を用いて治療にあたります。

臨床用のチベット薬は約600種類あり、B型肝炎・高血圧・関節炎・婦人科疾病・慢性関節リウマチなどに対して著しい効果があります。また、米国FDAで栄養補助剤として認証を受けている製薬や、中国漢方薬の国家保護品種になっているチベット製薬もあります。

それぞれに特徴を持つアジアの伝統医学には、3つの共通点があります。

  • <東洋的宇宙・身体観>…大自然の力(宇宙の法則)を重視し、人体を小さな宇宙として捉えていること。
  • <個々の体質を重視する健康観>…体内の構成要素とバランスを重視していること。
  • <自然との共生型の治療法>…心身の癒しと養生のために、薬効のある自然素材を用いて自然治癒力を引き出すこと。

いずれの伝統医学も病気になってから病院を攻撃的に排除するのではなく、日常の生活習慣が疾病予防にとって極めて重要であることを認識し、病気になる前に個々の体質と症状に応じて、健康を維持・増進する方法を体系化している点で共通しています。これはまさに、私たち現代人が学ぶべき点でもあるのです。

各国の代替医療を解説したところで、次回から日本の統合医療の歩みについて見ていきましょう。

この記事の監修者
朝霧高原診療所 院長 昭和大学医学部客員教授 山本 竜隆(やまもと たつたか)

聖マリアンナ医科大学、昭和大学医学部大学院卒業。医師・医学博士。地域医療とヘルスツーリズムの両輪で、地域活性や自然欠乏症候群の提唱などの活動をしている。富士箱根伊豆国立公園に位置する滞在施設「日月倶楽部」では、ヨガや瞑想などのマインドフルネス、企業の健康管理者への指導など雄大な自然環境に身を置いて行う各種滞在プログラムを提供している。
[朝霧高原診療所] https://www.asagiri-kogen-clinic.com/
[日月倶楽部] https://hitsuki-club.com/


ライター 濱岡 操緒(はまおか みさお)

大学卒業後、大手ゲーム会社に就職。広報宣伝部にて主に社内報や広報誌などの編集主幹を務める。退職後は母親向けの媒体、ウエディング関連の媒体などを手掛ける編集プロダクションに所属。現在はフリーランスとして書籍・雑誌・WEBメディアなどの編集・執筆、撮影ディレクションなど幅広く活動中。プライベートでは1児の母。最近の健康習慣は、ミトコンドリア活性化。

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