日本における統合医療の歩み(Ⅰ)

これまでのコラムでもお話してきた通り、日本の代替医療に対する取り組みは欧米に比べて非常に遅れています。しかし、一部の医療従事者や民間人による本格的な啓蒙・普及活動は1980年代から行われていました。

その代表的なものとして挙げられるのが、「日本ホリスティック医学協会」。1987年に設立され、いち早く全人的医療の必要性を提唱し、広く一般に情報提供を行ってきました。医師、歯科医師、鍼灸師等の医療関係者をはじめ、健康や医療に関心のある一般の人々が活動の趣旨に賛同し、入会しています。

同協会の会長を務めていた帯津良一氏は、代替医療の中でも特にホメオパシーの有益性について高く評価し、2000年には「日本ホメオパシー医学会」を発足。日本の医療にホメオパシー医療を根付かせるため、専門医の育成に力を注いでいます。

「日本ホリスティック医学協会」が統合医療の発展に貢献


日本ホリスティック医学協会が設立されるきっかけとなったのは、統合医療のパイオニアであるアンドルー・ワイル博士の『人はなぜ治るのか―現代医学と代替医学にみる治癒と健康のメカニズム』(上野圭一訳・日本教文社刊)。この内容に啓発された医学生たちによって持たれた読書会が、日本ホリスティック医学協会の原点です。

後に日本ホリスティック医学協会の発足に尽力した人たちの中から、さまざまな代替医療や統合医療に関する情報が広く一般の日本人にもたらされるようになります。その中の一人が、読書会の主催者であり日本ホリスティック医学協会の常任理事であり、赤坂溜池クリニック院長の降矢英成氏。赤坂溜池クリニックでは体や臓器だけを見るのではなく、心や環境などを含めたホリスティック医学を理念としています。具体的には食生活指導、運動指導などの生活指導を充実させた上に心理療法、かみ合わせ、顎関節治療、指圧、整体、カイロプラクティック、オステオパシー、血液栄養分析、心理療法、カウンセリング、アロマテラピー、リフレクソロジー、その他のボディワーク、波動測定などの各種療法を組み合わせて診断・治療を行っています。また、病気の治療だけでなく、疾病予防、健康増進にも力を入れ、ライフスタイル診断、東洋医学的診断、ストレス診断、波動診断などにより未病の段階での診断を行っています。

同じく、読書界の中心メンバーでありアンドルー・ワイル博士の著書を訳出した上野圭一氏も、日本にホリスティック医学や統合医療に関する情報を知らしめた功労者の一人。1999年には代替医療利用者ネットワーク(CAMUNet(カムネット))設立に携わるとともに、欧米の代替医療や統合医療の普及に尽力してきました。

CAMUNetとは、代替医療利用者ネットワークのことで、「医療消費者としての市民」の立場から未来に向けて心の健康を実現するために、市民レベルはもとより行政・教育・研究・医療などの各分野と広くネットワークを結び、“医療の選択肢”の一つとして、安全かつ適切な代替医療を受けることができる環境作りを目指す非営利市民団体です。まだ日本では数少ない“医療や健康の新しい時代”を志向する市民団体であり、特別顧問としてアンドルー・ワイル博士を迎えています。

21世紀に求められる予防医学


1990年代後半になると、米国の流れを受けて日本でも代替医療関連の学会が次々と設立されました。さらに、国際統合医療会議の受け皿として2001年には「日本統合医療学会(JIM)」が設立。他にも、医療関係者によって設立された代替医療の研究・啓蒙機関もあります。

こうした背景にあるのは、厚生労働省が打ち出した「健康日本21」(21世紀における国民健康づくり運動)があります。疾病の一次予防、健康の維持・増進が医療・健康政策の最重点課題となり、出生から死に至るまでのケアおよびキュアを行う包括医療が理想として掲げられるようになりました。

しかし、包括医療は境界がボーダーレスなものであり、従来の医学のように診断と治療のみに重点を置くことに限界があるのは自明の理。とりわけ、過度のストレス社会や少子高齢化時代においては、生活者の健康維持・疾病予防という観点から、本人はもちろん社会全体の取り組みが必要不可欠になります。代替医療の社会的意義も、そこにあるといえるでしょう。

日本において鍵となるのが、医療保険制度の問題。現行の国民皆保険制度では、いわゆる「薬漬け、検査漬け」状態にならざるを得ず、新たに予防医学としての代替医療が入る余地がありません。予防医学的な観点から、現行の保険診療と自由診療の混合診療を行う医療機関が増えることで“病気にならないための努力”が可能になるのです。

もっとも、問題なのは代替医療の評価方法。日本人は何事に対しても科学的か否かに終始するため、計量化できない問題や不確定な要因を含む代替医療に関しては、どのように評価し扱うべきか十分に注意を払い、吟味する必要はあるでしょう。

この記事の監修者
朝霧高原診療所 院長 昭和大学医学部客員教授 山本 竜隆(やまもと たつたか)

聖マリアンナ医科大学、昭和大学医学部大学院卒業。医師・医学博士。地域医療とヘルスツーリズムの両輪で、地域活性や自然欠乏症候群の提唱などの活動をしている。富士箱根伊豆国立公園に位置する滞在施設「日月倶楽部」では、ヨガや瞑想などのマインドフルネス、企業の健康管理者への指導など雄大な自然環境に身を置いて行う各種滞在プログラムを提供している。
[朝霧高原診療所] https://www.asagiri-kogen-clinic.com/
[日月倶楽部] https://hitsuki-club.com/


ライター 濱岡 操緒(はまおか みさお)

大学卒業後、大手ゲーム会社に就職。広報宣伝部にて主に社内報や広報誌などの編集主幹を務める。退職後は母親向けの媒体、ウエディング関連の媒体などを手掛ける編集プロダクションに所属。現在はフリーランスとして書籍・雑誌・WEBメディアなどの編集・執筆、撮影ディレクションなど幅広く活動中。プライベートでは1児の母。最近の健康習慣は、ミトコンドリア活性化。

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